(※写真はイメージです/PIXTA)

貸借対照表はBalance Sheet、略してB/S(ビーエス)と表記されます。これは財務会計の分野で企業の財政状態を表わす決算書の一つです。そして幸福の条件、「お金」の土台である「個人資本」は貸借対照表の純資産と知的資産から成ります。公認会計士の千日太郎氏が著書『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)で解説します。

目に見えるお金=貸借対照表の「純資産」の意味

まずは、具体的な数字という形で目に見えるお金として、貸借対照表の「純資産」についてお話しておかねばなりません。かつて「純資産」は「資本」と呼ばれていたのですが、その名残りが貸借対照表の総資産に対する純資産の比率を「自己資本比率」と呼ぶことです。この比率が高いほど、企業の財務基盤が強い(赤字に強い)とされています。例えば、純資産が減り過ぎてマイナスの数値になる状態を債務超過と言い、こうなったら企業は倒産すると言われています。

 

しかし、企業が倒産する本質的な原因は純資産がマイナスになることではないのです。この会社に運転資金を貸している金融機関が新たな融資を打ち切り、既に貸している融資の回収に動き出すためです。これによって、取引をしてくれる相手がいなくなり、事業を畳まざるを得なくなるのです。企業に決定的なとどめを刺すのは、社会資本がゼロになるということです。社会資本の助けがなければ企業は存続できません。

 

出所:千日太郎著『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より
[図表3]賃借対照表の「純資産」は財務的な健全性の尺度になる 出所:千日太郎著『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より

 

仮に純資産が一時的にマイナスになったとしても、この企業にこのピンチを挽回する力があると評価されて、金融機関が融資を続け、取引先も取引を続けたなら企業は存続し続けます。そうした意味で「純資産」とはただ資産と負債の差額にすぎないという現在の捉え方は実態をよく表わしていると思います。

 

これはわたしたち自身の貸借対照表にも当てはまります。個人の家計において貸借対照表を作るとこの「純資産」がマイナスになることがあります。例えば30代前半の新婚夫婦がフルローンで新築の建売戸建てを買った直後は、住宅ローンの金額は家の代金と同額であり、新築の家は引き渡された瞬間に中古となり住宅市場での売却価値が下がります。

 

出所:千日太郎著『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より
[図表4]フルローンで新築の家を買った直後の「純資産」はマイナス 出所:千日太郎著『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より

 

上図は3000万円の新築住宅を3000万円の住宅ローンで購入したと仮定しています。新築住宅は引き渡された直後には中古住宅となるため、2800万円に評価額が下がったと仮定しました。この夫婦は現金を50万円しかもっていなくて、家があるとはいっても家を売って借金を完済することはできません。「純資産」はマイナス150万円の債務超過です。

 

ではこの夫婦に住宅ローンを貸した銀行は、債務超過であることを理由に融資を引き上げてしまうでしょうか?否です。年齢が30代前半でこれからまだまだ働くことで収入を得て、これによって利息と元金を払ってくれることが期待できるからです。いわば広義の貸借対照表では債務超過になっていないのです。銀行は債務者の信用状態を評価するときに本当に広義の貸借対照表を作成するようなことはしませんが、実際にはそれを想定して判断を下すのです。

 

ならば貸借対照表の「純資産」は大して重要な数字ではないのかというと、そんなことはありません。この夫婦の年齢が60代であったら?と考えてみてください。現時点の労働市場にあっては、ごく一部の例外を除き、現役世代と同水準の収入は望めません。また資産には「外部に積み立てたはずの年金資産」があるのですが、これに対する評価は地に落ちているというのは前述の通りです。広義の貸借対照表を想定しても、純資産はプラスにならないかもしれませんね。

 

本連載をお読みの方の年齢は主に40代の後半から50代だと思いますが、中には60代以上の方もおられると思います。現時点の自分の貸借対照表を作ってみて、資産と負債の差額である「純資産」の金額がいくらになっているか? これを把握することが全ての始まりです。ちょっと怖い気がしますよね。しかしこのまま進んでいったらどんな不幸が待っているのか? そしてそれまでにどういうプロセスを経るのか? この二つを知ることが、不幸な未来を回避する有効な方法なのです。

 

千日 太郎

オフィス千日(同)代表社員

公認会計士

※本連載は千日太郎氏の著書『初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)から一部を抜粋し、再編集したものです。

初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入

初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入

千日 太郎

同文舘出版

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