(※写真はイメージです/PIXTA)

経営悪化のため、契約期間が「4年」となっていた物件を10ヵ月で退去せざるを得なくなった借主。しかし契約には「借主が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う」との文言が……。このような「違約金条項」の設定は有効なのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

裁判所が「違約金は1年程度が限度」と判断したワケ

この裁判例から読み取れることとしては、中途解約の場合の違約金としては、「借主から中途解約の申入れがされてから、貸主が次の賃借人を募集して入居に至るまでに必要と考えられる期間」(おおむね6ヵ月~1年程度)が相当であり、これを超えるような違約金を設定する場合には、相応の理由が必要になる、ということです。

 

相応の理由としては、たとえば物件がオーダーメイド賃貸など、借主の希望に基づいて物件が建築され、他に転用が難しい場合などが想定されます。

 

【参照:東京地方裁判所平成8年8月22日判決】

 

「1.建物賃貸借契約において1年以上20年以内の期間を定め、期間途中での賃借人からの解約を禁止し、期間途中での解約又は解除があった場合には、違約金を支払う旨の約定自体は有効である。

 

しかし、違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮したうえで、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる

 

「2.そこで、第1契約による違約金について判断する。

 

本件で請求されている違約金は、被告会社が本件建物の6階部分を平成6年2月26日に解約したことにより、実際に6階部分を明渡した日の翌日である同年3月5日から契約期間である平成9年4月30日までの賃料及び共益費相当額である。

 

なお、この計算においては、第1契約の賃料及び共益費は本件建物の4階と6階部分のものであり、4階と6階は床面積が同一であるから、第1契約の賃料及び共益費の半額、すなわち平成6年3月5日から平成7年4月30日までは月156万3,575円、平成7年5月1日から平成9年4月30日までは月173万642円で算定している。

 

被告会社が本件建物の6階部分を使用したのは約10ヵ月であり、違約金として請求されている賃料及び共益費相当額の期間は約3年2ヵ月である。

 

被告会社が本件建物の6階部分を解約したのは、賃料の支払を継続することが困難であったからであり、第1契約においては、本来一括払いであるべき保証金が3年9ヵ月の期間にわたる分割支払いとなっており、被告会社の経済状態に配慮した異例の内容になっているといえる。

 

原告は、契約が期間内に解約又は解除された場合、次の賃借人を確保するには相当の期間を要すると主張しているが、被告会社が明け渡した本件建物について、次の賃借人を確保するまでに要した期間は、実際には数ヵ月程度であり、1年以上の期間を要したことはない。

 

以上の事実によると、解約にいたった原因が被告会社側にあること、被告会社に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても、

 

約3年2ヵ月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず、

 

平成6年3月5日から1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する

 

※この記事は、2020年7月26日時点の情報に基づいて書かれています(2022年11月17日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

大江・田中・大宅法律事務所

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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