(※写真はイメージです/PIXTA)

ダイエットが失敗するのは、「痩せようとする意思が弱いから」ではありません。本稿で肥満に繋がる要因や、ダイエットを成功させる食事のコツを知り、本当に効果のあるダイエット方法を押さえましょう。総合内科専門医・團茂樹氏(宇部内科小児科医院 院長)が、トロントの医学博士 ジェイソン・ファン氏の著書を参考に解説します。

短期間のダイエット vs. 長期間のダイエット

■短期間ダイエットについて

数週間から3ヵ月程度のダイエットのことで、炭水化物、タンパク質、脂質のどれを控えても減量可能。つまりはカロリーの問題です。自分で食べすぎていると思うものを減らせばいいことです。甘いお菓子や果物によることが多いかもしれません。

 

運動は代謝を上げるためにはいいでしょうが、案外カロリーは消費できません。短期間で減量を目指すのであれば、やはり食事が重要です。

 

ただし若い女性の方では、間食は言うまでもなく、主食にまでおよぶストイックな糖質制限による生理不順をよく耳にします。

 

■長期間のダイエット

本来はこちらが大事です。短期間の禁酒や禁煙がどれほどの意味があるのかということと同じです。

 

ⅰ)人それぞれで体質が異なります。これはいかんともしがたい問題です。現在、50種類近くの倹約遺伝子(別名肥満遺伝子)が報告されています。しかしこれらの遺伝子を調べたとしても、遺伝子というのは変えられません。

 

ⅱ)カロリーが必ずしもダイエットの一番の要因ではないことがわかってきました。

 

さて、ここからが本題です。

「食べてないのに痩せない」のはなぜ?

ヒトには「ホメオスターシス(恒常性維持機能)」が働きます。

 

実施期間が数ヵ月以内であれば、炭水化物や脂質またはタンパク質の減量によるダイエットは難しくないかもしれません。しかし、多くの方が、数ヵ月経つとなかなか体重が減らなくなる経験をされていると思います。

 

ダイエット開始から数ヵ月後には、ヒトの体は元の体重に戻ろうとして、自然と基礎代謝が落ちてしまいます。この代償現象をホメオスターシスと言います。これは痩せようとする意思の強さや弱さにかかわらず、誰にでも起こる現象なのです。適切な例えにはなりませんが、怪我をしても、現実的には自然治癒力で治ってくるように、“元に戻ろうとする力”が働くものです。この時期でくじけてしまうとリバウンドしてしまいます。

 

一方で、太りたいと思っていっぱい食べ続けても、ある一定期間を過ぎると自然と基礎代謝が上がるために体重が増えなくなる現象も、実は同じ理屈です。

長期間ダイエットのカギは「インスリン」

長期間ダイエットのために、肥満ホルモンである「インスリン」の分泌を減らす工夫をすれば、ダイエットの失敗が「意志の弱さ」のせいではないことがわかるはずです。

 

インスリンというと、炭水化物との関連や血糖降下作用があることだけがクローズアップされていますが、インスリンには肥満ホルモンという側面があります。

 

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<肥満ホルモンとしてのインスリン>

a)西洋人の基礎インスリン分泌量は東洋人のそれに比較して多いことがわかっています。西洋人と東洋人のインスリン分泌量の差は、両者の体型を比較すると容易に想像できると思います。

 

b)糖尿病の患者さんの中でも実際にインスリン注射治療をされている方では、摂取カロリーは減らしているにもかかわらず体重増加を経験されることが多いはずです。

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ストレスが「ダイエットの大敵」なワケ

長期間ダイエットを実現するためには、インスリン分泌を減らす工夫が欠かせません。また、インスリン分泌を促すのは、炭水化物だけではないのです。

 

ストレスを感じると、ストレスホルモンとしてのコルチゾールが分泌されるようです。コルチゾールはインスリン分泌を促します。

 

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<ポイント>

①睡眠不足が続くと、ストレス→コルチゾール分泌増加→インスリン分泌増加→肥満、という図式も起こりえます。ストレスを溜めないために7時間睡眠をベストとする報告もあります。

 

②ヨーガ、瞑想、呼吸法など、自分に合ったストレス解消を知ることも大事です。

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痩せたいなら「早食い」はしないほうがいい

すべての食べ物は、三大栄養素の構成割合およびそれらの摂取量によって程度の差はあるものの、インスリン分泌を促します。細かくいうと、炭水化物の中ではブドウ糖、タンパク質では各種アミノ酸、そして脂肪では、ココナッツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸(MCTオイル)によりインスリン分泌が起こります。MCTオイルは肥満ホルモンであるインスリン分泌を刺激しますが、それよりも遺伝子解析などのデータからは、むしろ内臓脂肪を減らすシグナルが出ると言われています。

 

また、当たり前の話として、同じ食品でもゆっくり時間をかけて食べるかまたは早食いするかでもインスリン分泌反応は違うと考えられます。その影響については複雑になりますので本稿ではカットしますが、とにかく、何でも早食いしないほうがいいようです。

肥満ホルモンとしてのインスリン分泌を抑えるには?

ここからは、なるべく肥満ホルモンとしてのインスリン分泌を多く出さない工夫について書いてみます。

 

■何を食べたらいいのか?

 

【避けたいもの:インスリン分泌の多いもの】

a)炭水化物の中でも食物繊維が取り除かれている精製された穀物

b)砂糖やブドウ糖果糖液糖を多く含むおやつや飲料水及び調味料

⇒細かい話をすると、別稿に、通常量の調味料ならブドウ糖換算量(=血糖値への影響を測る指標)としてはほとんど無視できると書きましたが、旨味刺激による神経を介したインスリン分泌作用は考えられます。

c)脂質がほとんどないタンパク質の過剰摂取

※注:例外として、「果物」はブドウ糖よりも果糖を多く含むものが多いためインスリン分泌はさほど多くはありませんが、取りすぎると肥満の原因となります。果糖は体内で中性脂肪に変換されやすいという特徴があります。

 

【摂りたいもの:インスリン分泌が少ないもの】

a)食物繊維 ナッツ類、キヌア、チアシード、枝豆、コンニャク

b)お酢やリンゴ酢

c)水、炭酸水、コーヒー(インスタントは避ける)、赤ワイン適量、お茶

d)ダークチョコレート、チーズ

e)いい脂質:ナッツ類、乳製品、アボカド、オリーブオイル、えごま油、アマニ油、魚の油など

※注:純粋な脂質自体は、カロリーとしては多いですがインスリン分泌はわずかであり、あまり肥満とは関係しません。脂質や脂肪酸の話になると複雑すぎるので、ここまでに留めておきます。

 

■いつ食べたらいいのか?

一日3食で適度なおやつを摂る生活をしていて、単純にカロリーを控えるダイエットであれば、上記したようにホメオスターシスが働いて基礎代謝が落ち、元の設定体重に戻ってしまうでしょう。

 

長期間にわたるダイエットには、カロリーというより「インスリン分泌」を減らす工夫が大事です。一日のうちで「インスリンが分泌される時間」をできる限り短く、また、「インスリンが分泌されない時間」をできる限り長くしましょう。つまり、ダラダラ食いをやめることです。

 

具体的には、自分のライフスタイルにあった無理のないプチファステイング(断食)がいいでしょう。

 

24時間のうち食事にあてる時間を8時間以内にするのも、一つの案としていいと思います。たとえば12時に昼食を摂ったら、夕食はその8時間以内、つまり20時に済ませます。そのほかの16時間は、飲み物なら水・お茶・ドリップコーヒーに限り、食べ物はダークチョコレートやチーズおよびナッツ類に準じたものを少しだけ摂る、というのが実現しやすいかもしれません。もちろん、これをヒントに自由に自分の生活スタイルに合わせて、無理のない応用をしてください。

長期間ダイエットには「手軽に続けられる運動」も重要

最後に、運動についてです。

 

長期間ダイエットを行うには、やはり運動で少しでも筋肉をつけて、代謝を上げることが必要です。そのためには、手軽にできて根性論もいらない運動の習慣化が必要です。

 

a)純粋な嫌気性運動は速筋、別名「白色筋」との関係が言われています。きつい負荷がかかり、ジムや特殊な器具を必要とします。短距離走、バーベルなどを使った筋肉トレーニング、相撲など短時間に行う強度の高い運動など。ブドウ糖が主なエネルギー源です。誰もがどこででもできる運動ではありません。
 

 

b)有酸素運動は遅筋、別名「赤色筋」との関係が言われています。ジョギングやウォーキング、サイクリングなど、筋肉に軽度〜中等度の負荷を継続的にかける運動。遊離脂肪酸が主なエネルギー源です。実践するには時間と場所がかかります。

 

私のイチオシの運動は、「桃色筋肉運動」です。以前NHKの番組で取り上げられていました。私はそれにヒントを得て、糖尿病の方には特に食後なるべく早くにスクワットや壁押し(図表1)、相撲の鉄砲などを、息を止めないで5分程度行うように指導しています。70%くらいまでの力を込めることでブドウ糖を主なエネルギー源として使い、食後血糖の降下も期待され、また、少しでも筋肉をつけることを習慣化するようにアドバイスしています。

 

PIXTAの画像より作成
[図表1]壁押し PIXTAの画像より作成

 

糖尿病のない方でも、自宅や職場での自分に合った軽いレジスタンス運動(図表2)*を、工夫して毎日ちょこちょこと行ってください(*レジスタンス運動…筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動。いわゆる筋トレ)。最低でも1日1回、1回5分程度でいいでしょう。何回やるかについては、最初はノルマを課さないことです。

 

PIXTAの画像より作成
[図表2]レジスタンス運動の例 PIXTAの画像より作成

 

ダイエットに王道はありませんが、本稿が、自分に合ったダイエットとして無理のないことから始めるための一助になったら幸いです。

 

【参考文献】

ジェイソン・ファン『トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ』(サンマーク出版)

 

 

團 茂樹(だん しげき)

宇部内科小児科医院 院長

総合内科専門医

 

日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。

 

以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。

 

著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。

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