(画像はイメージです/PIXTA)

ある資産家は、財産のすべてを長男に相続させたいと考えており、長女には遺留分に該当する現預金を渡す予定ですが、財産から相当する現金を準備できないため、生命保険を活用したいと考えています。この方法を取るにあたり、留意すべき点はどこにあるのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

生命保険を利用した遺留分対策「注意すべきポイント」

遺言書を書くときには、相続が発生したときに揉めないよう、遺留分のことを考えたほうがよいとよくいわれています。今回の問題でいえば、遺言書に「遺留分に相当する財産を花子さんに相続させる」という内容を入れるということになるかと思います。

 

しかし、本件のように財産が不動産しかない場合、遺留分に相当する財産を花子さんに相続させるという内容にするのは、なかなか難しいといえます。

 

そこで、遺留分への対応は、遺言の内容ではなく、遺留分に相当するお金を残すことが考えられます。

 

現金や預貯金などの金融資産で遺留分に相当する金額を残せるなら、それがいちばんいいのですが、必ずしも十分な現預金があるとは限りません。

 

そのような場合、生命保険を利用して、遺留分に相当する資金を作るのが有効となるケースもあります。

 

しかし、生命保険を利用して遺留分対策を行うときには、注意すべきポイントがあります。

 

それは「相続人のうち誰を受取人にするか」ということです。

 

本件で、仮に、生命保険も遺産だと考えるのであれば、太郎さんに4億円の遺産を相続させるのですから、花子さんに遺留分相当額の保険を渡す必要があることとなり、花子さんの遺留分8分の1に相当する5000万円の生命保険の受取人を花子さんにすればよいとなるでしょう。

 

あるいは、生命保険が遺産だとすれば、その生命保険を加算した額で遺留分を計算することから、正確には、5,000万円では不足するため、「」の式より求められる5,714万円((4億円+X)×8分の1=X、便宜上1,000円未満を切り捨て)の生命保険の花子さんを受取人として掛ける必要があると考えることとなるかもしれません。

 

これらの考え方に基づいた選択肢が選択肢①と選択肢②ということとなります。

 

確かに、生命保険は、被相続人の方が亡くなったら受け取れるものです。しかも、相続税の申告上は、相続税の対象となります。そこで、生命保険は遺産だと考える人も多いと思います。

 

しかし、最高裁の判例上、原則として、生命保険は受取人のもので、遺産ではなく、特別受益にもならないとされています。

 

したがって、太一さんが、花子さんを生命保険の受取人にしてしまうと、遺産分割上は、何も受け取っていないことと同じになり、何の遺留分の対策にもならないのです。

 

よって、生命保険の受取人を花子さんとする選択肢①②はいずれも誤りです。

 

正解は、生命保険の受取人を太一さんとする選択肢③となります。

 

生命保険は、生命保険の受取人のもので、遺産ではないので、太郎さんを受取人としても、花子さんの遺留分は4億円の8分の1である5,000万円のままとなります。

 

このように、太一さんを5,000万円の生命保険の受取人としておけば、いざ相続が発生したときには、太郎さんが5,000万円の生命保険を受け取り、花子さんに遺留分として支払うことにより、遺留分の問題は解決するということとなります。

 

実際に、生命保険で遺留分問題を解決しようとして、誤って花子さん側を受取人としてしまったケースの相談を受けたこともあります。花子さんは保険金を受け取った上に遺留分も請求できることとなってしまいます。ご注意ください。

 

本件のように、遺産総額4億円と高額な相続の場合、遺留分の資金を用意する必要もありますが、相続税の納税資金も用意する必要があります。

 

事前にいくら相続税がかかるか税理士に相談し、その納税資金の準備も重要となります。

 

また、本件のように、配偶者が生存している場合には、遺留分の割合が少なくなります。

 

本件で、まず、太一さんが、妻の陽子さんにすべて相続させるとすると、花子さんは遺留分を8分の1である5,000万円請求できることとなります。

 

次に陽子さんが長男の太郎さんにすべて相続させるとすると、花子さんは遺留分を4分の1である1億円を請求できることとなり、遺留分の合計が1億5,000万円となってしまう可能性があります。

 

相続税の問題や陽子さんの居住権の問題もありますが、遺留分の問題も考えて、一次相続、二次相続の対策をする必要があるケースもあることから、この点にもご注意ください。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

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