相続トラブルの解決策はケースごとに「千差万別」
本件は、相続に関連した案件に多く携わってきたエージェントCが担当しました。親から不動産を相続したけれど、その処遇について相続人の間で意見が対立し揉めているという相談は、近年非常に多く寄せられています。
相続した不動産が空き家、空き地であった場合、手間のかからないオーソドックスな着地点として、相続人たちによる共有不動産として引き続き持ち続けるという案があります。
しかし、この場合、「不動産を誰が管理するのか」とか、「固定資産税など税金は誰がどういう割合で負担するか」など、共有状態に紐づいた課題がいくつも表面化し、相続人たちの間で話をまとめるのは骨が折れます。さらに、次の代に相続されたとき、その共有関係はより複雑化し、誰が何割の持分なのか不明瞭になったり、音信不通の相続人なども出てきたりする事態になり、一層こじれていくことになります。
長く空き家のままにした場合は、老朽化による倒壊の危険性も考えられ、相続による共有不動産を起因とした空き家問題は近年社会問題として深刻化しています。
つまり、「とりあえず共有にしよう」という発想はいわば問題を先送りにしているに過ぎないわけで、お勧めできない相続不動産の処遇です。四谷さんの場合、「手放す」「住み続ける」で意見が完全に対立しているため、共有不動産にする選択肢はあり得ませんでした。
今すぐ不動産の処遇を決めるべきでしたが、解決案の候補はいくつか思い浮かびます。
事前に相談していた不動産仲介会社の売却プランや、ハウスメーカーの収益物件建設プランも解決策の一つですが、姉との対立関係を乗り越えなければ、これらを採用することはできません。専門的な対処法として「代償分割」があります。
相続した土地ではなく、相続分に該当する現金を代わりに用意して共有関係を解消する方法です。今回の件に当てはめれば、相続分に該当する代償金を四谷さんから姉に渡して、四谷さんは土地を丸ごと相続することになります。これならどちらの希望も満たすことができます。
この方法は小規模な不動産の相続であれば現実的なのですが、今回の場合は100坪という広大な土地です。しかも立地もかなり優れており、相場からおよそ2億円という実質的評価となっていました。つまり、四谷さんから姉へ1億円を代償金として渡す必要があります。両者の希望に添えられる理想の解決策ですが、非現実的だったのです。
相続した財産で揉める例は多く、しかも問題となるケースは細分化されており、最適な解決方法はケースごとに千差万別です。オリジナルのカスタマイズが必要であり、担当者の経験と知識次第で結果が大きく変わってきます。こじれてしまうと裁判沙汰にまで発展することもあるので、デリケートな対応が必要でした。
エージェントCは、そもそも相続に関連した問題は、金額や資産云々とは別のところにこじれる要因があるものだという事実を経験から熟知していました。それは人の感情部分に起因しているものであり、相続した各人の譲れない気持ちが衝突し合うことで、相続問題は必要以上に肥大化しているものなのです。
すなわち、対立している両者の意見にきちんと耳を傾け、思いを汲み取ることで、具体的な解決策が見えてきます。そこで、エージェントCからいきなり解決策を提示せず、四谷さんだけでなく、姉からもヒアリングしたいと提案をしたのです。
大西 倫加
さくら事務所 代表取締役社長
らくだ不動産株式会社 代表取締役社長
だいち災害リスク研究所 副所長
長嶋 修
さくら事務所 会長
らくだ不動産株式会社 会長