遺言書で示す不動産の分割方法には「法的効力」がある
権利の主張によるいざこざが起きてしまったら、なかなか解決するのは難しくなるでしょう。ただし、初めからこういった権利の主張による問題が起こらないようにする予防策はあります。それは、遺言書を作成しておくことです。
最近では遺言書を利用する人も多くなってきましたが、遺言書に不動産の分割方法を示しておけば法的効力を伴うので、相続人に有無を言わさず確実に実行されます。それがたとえ、一部の相続人にとって不平等な分割になったとしても、親の遺志であればたいていの子は納得するものです。
もし納得するかどうかが心配であれば、「付言」という形で相続人へのメッセージを遺言書に書いておくこともできますので、それを利用して分割の理由や事情をわかってもらうようにします。
それでも心配と言うのであれば、生前のうちに直接話しておいてもいいかもしれません。親と一緒に腹を割って話を進めておくことで、腑に落ちる人もいることでしょう。
筆者が担当した事例で、遺言書がないにもかかわらず、もめごとも起こらずスムーズに遺産分割協議ができたケースを紹介しておきます。
介護の貢献度に配慮することも「もめない」ための工夫
それは、父が先に亡くなっていて、母が亡くなった時の二次相続のことでした。相続人の子は全部で8人いました。8人も兄弟がいれば、かなり難しい遺産分割協議になってもおかしくないのですが、そこをうまく長男が取り仕切ったのです。
まず、財産の評価を皆が納得するように市場価格で設定しました。それから、皆に平等の分割を考えます。平等なだけではなく、生前に母を介護していた長女にはそのまま自宅を相続させるなどの配慮をしました。
このような生前の親の介護に対する配慮は、実はかなり重要なポイントです。親の介護をしていなかった兄弟たちと同等の財産を相続するといっても、通常それはそうそう納得できることではありません。介護は、体力的にも精神的にも、また金銭的にも負担が大きいものです。長男はそのことへの配慮も忘れずに考えていました。
そして、相続税に関しては、長女に小規模宅地等の特例を適用し、最大限に減額しておいて、残った相続税を皆で按分するようにしました。税額は減っていることもあって、8人の相続人で負担すれば、そう高額にはなりませんでした。納税に関して言えば、8人も相続人がいることがプラスとなって働いたようです。
この相続は、最後までもめごとも起こらず理想的な相続でした。相続人全員で集まって何度もディスカッションを重ねていた結果ではありますが、介護への配慮によって誰も不満を漏らさずに自宅という不動産を相続することができたのです。このような事例こそ、これから相続を迎える人は見本にすべきだと思っています。
分割しにくい不動産があったとしても、均分相続制度に振り回されないように対策を考えて実行すれば、問題を起こさないようにすることは十分に可能です。
日本の相続制度は、そもそも「もめやすい」と心得る
ちなみに、均分相続制度はアメリカなどの影響を受けて制定されたとお伝えしましたが、実際にはアメリカはそのような相続制度ではありません。アメリカでは、自分の最後の意思として遺言を残すという考えが広く浸透しているため、遺言を執行することを前提とした相続制度になっており、原則として均分で相続するといった考え方はありません。
検認裁判(プロベート)というものが行われることになっており、遺言がある場合は、遺言によって指定された執行人が、州法に従って遺産を分配する手続きをします。日本のように相続財産をもらう相続人が相続税を納付するのではなく、被相続人が納付しなければなりませんので、相続財産がすぐに相続人のものとなることはありません。権限を与えられた執行人が十分な調査をしてから被相続人に代わって相続税を納付し、残りの財産を遺言通りに相続人に順次配分していくという流れになっています。
確かにそのような制度であれば、相続税の納付に右往左往することもなく、相続人同士による分割の争いも比較的起こらずに済むように感じられます。
しかし、現状の日本は均分相続制度です。ここではアメリカを例に出しましたが、日本は他の国と比べても問題が起こりやすい制度を採用している、そういった視点をもって自分の相続を見つめることは、これからの相続対策に対する意識を高めるための1つの参考になるかもしれません。