多能工化が失敗する理由
メリットやデメリットを理解し、適切なステップを踏んだにもかかわらず、「組織としての問題」「社員自身の問題」が起因となって多能工化が失敗するケースがあります。
組織としての問題
■社員の適性を確認していない
社員の適性を理解しない、あるいは無視したまま強引に多能工化を進めると、社員のモチベーションを削いでしまう恐れがあります。適性テストを行ったり、スキルマップも併用して社員の業務内容を事前にチェックしておく必要があります。もちろん、ある社員が有能だからといって業務を押し付けすぎると精神的苦痛を感じますし、そもそもの目的である「業務の定量化」からも逸脱してしまいます。
■教育期間が適正でない
人材育成には時間がかかることは前述した通りです。多能工化の実現を急ぐあまり、教育期間が短くなると、業務をしっかりと習得できず、モチベーションや士気の低下につながります。高度なスキルを要する業務ほど、OJTを含む長い教育期間が必要であることを理解し、業務に支障の出ないような育成計画を立案することが必要です。
■定期的な評価や振り返りが行われていない
想定した期間内で多能工化を実現するためには、定期的に評価と振り返りを繰り返すことが必要です。計画通りに人材育成を進められることはまれで、さまざま問題が発生してきます。必要があれば計画の修正をしていかなければなりませんし、社員への定期的なフィードバックがあればモチベーションの向上にもつながります。
また、多能工化した社員の負荷が高まっていないか、会社側の都合だけで業務の割り振りをして振り回していないかなど、社員の目線にも立って、コミュニケーションを取っていくことも必要です。
社員自身の問題
■育成を当たり前だと勘違いし、企業や周囲への配慮がない
多能工化へ向けた育成期間中は、業務に従事する時間が減ってしまうこともあり、周囲の社員によるフォローが必要な場面も発生します。そのことを理解しない振る舞いをすると周囲との軋轢を生み、チームワークを向上させるための取り組みでもあった多能工化が逆効果となってしまいます。
現在は単能工であっても事前に業務全体を俯瞰させることで、育成期間中に周囲の社員がどのように自分の業務をフォローしていくのかを理解させなければいけません。
■多能工化の目的を理解できていない
単能工から多能工へ移行する過程において、業務負担増加を懸念する社員からの反発が生まれるケースがあります。業務範囲は広がるものの、業務全体としてみた場合、業務量の平準化が図れることやキャリア形成においても有益であることを理解してもらえるような説明をすることが必要です。さらに、前述したように、適切な人事評価制度を準備し、明示できるようにしておく必要もあります。