富裕層が注目すべきは贈与税・相続税の今後の税制改正
「資産所得」とは、個人が所有する資産から得ることのできる所得を指します。つまり、利子、配当、賃貸料から得られる収入などです。保有資産が増えれば資産所得も増えますが、資産所得を増やすには、より高いリターンを生むものを選ぶことも肝要となります。
バブル崩壊後、日本経済は長らく低迷し、「ゼロ金利政策」により銀行の預金金利もほぼゼロの状態が続いています。金利が低くなれば企業は融資を受けやすくなり、経済の活性化を促せるためです。一方、コロナ禍で世界経済も不況となり、世界各国で「金融緩和政策」が取られ、株価は高値を維持しています。
しかし、冒頭で述べたとおり、日本の金融資産の構成は、預金・現金が半数を占めています。日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較(2021年8月20日)」によれば、株価高値の状況にあっても株式等の保有は10.0%程度、投資信託に至っては5%以下とのことです。
一方、米国は預金・現金13.3%、株式等37.8%、投資信託13.2%。この結果、日本証券業協会「中間層の資産所得拡大に向けて~資産所得倍増プランへの提言~」によると、米国は20年間で家計金融資産が3.4倍になっているのに対し、日本は1.4倍に過ぎないのだとか。 何事も欧米に倣うことの多い我が国で、このデータが「貯蓄から投資へ」の根拠のひとつとなっていると考えられます。またひとつには、海外投資家へのアピールとの見方もあるようです。
ここ数年、その年の国の経済活動水準を算出する名目GDPで、日本は世界第3位を保ってきました。しかし、その一方で、国の平均的な豊かさを表すひとり当たり名目GDPでは、日本は28位。個人の豊かさにも配慮し、成長が見込める国を印象づける施策ともいわれます。
とはいえ、投資である以上リスクはつきもの。今後、国は「投資教育」にも力を入れていくとのことですが、投資におけるリターンとリスクは必ず相互に存在します。NISAの非課税が恒久化されてもリスクがなくなるわけではなく、全員が所得倍増するわけではありません。
また、60歳定年制が一般的だった時代と違って、いまの日本では老後をいつからとするかは本人次第です。企業の努力義務として、70歳までの就業機会の確保が2021年4月1日に施行されましたし、2022年4月から年金受給の上限年齢が75歳に引き上げられました。
Aさんのように65歳で悠々自適の生活を選べる人もいれば、「人生100年時代」を見据えて65歳を過ぎてから資産所得の増加に励む人もいるでしょう。あるいは、もっと若くして投資で資産形成するなら、税制改正による「資産の世代間移転の円滑化」は不可欠でしょう。
2022年10月には、政府税調の『相続税・贈与税に関する専門家会合』で「資産移転の時期の選択に、より中立的な税制の構築」が議論されています。各省庁の税制改正要望も出揃い、税府税調での議論もまとまれば、12月中には令和5年度税制改正大綱が閣議決定されます。 「資産所得倍増プラン」の行方とともに、「相続税と贈与税の一体化」の進展にも注目したいところです。
岡野雄志
岡野相続税理士法人
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