(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省によると、老齢厚生年金の平均受給額は「14.6万円」と、退職後に年金だけで暮らすのはたいへん厳しい時代であり、一生働かなければならないのかと落胆してしまいます。そこで今回、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、「年金受給額を少しでも増やせないか」と事務所へ相談に来た63歳男性Iさんの事例をもとに、年金受給額を増やす方法を解説します。

65歳以降も働き、収入と厚生年金の受給額を増やす

Iさんが65歳から70歳までの5年間、厚生年金保険料を納めながら、月収15万円(ボーナスなし)で会社に勤めれば、納税額などは考慮せずに年間180万円、5年間で900万円家計の収入が増えます。

 

この場合、老齢厚生年金の受給額は、[前掲図表2]のように報酬比例部分と経過的加算、加給年金額で計算します。Iさんが65歳からも5年間会社勤めした時、70歳以降の年金受給額はいくら増加するのでしょうか(この試算には、繰下げて受給する効果は加味していません)。

※ 令和4年4月から、65歳以上の人が在職中、毎年8月までの加入期間に応じて、毎年10月分から老齢厚生年金額が増加されます。しかし今回のケースでは、Iさんが70歳まで働いたときの年金受給額を明確にするため、従来通り70歳で退職した場合の年金額を試算することにしました。

 

まず、報酬比例部分について試算すると、65歳で受給するより5万1,924円増加します。

 

次に経過的加算ですが、Iさんの場合は増額されません。なぜなら、経過的加算の計算では、厚生年金の加入月数が最大480ヵ月と定められています。Iさんは[前掲図表2]のように65歳までにすでに上限に達し、65歳以降受給する月14万円の年金のなかに、月約7,315円含まれているからです。

 

加給年金も、前頁ポイント4(老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる)で述べたように70歳からの受給はありません。

 

したがってIさんの場合、70歳からの老齢厚生年金は、報酬比例部分の5万1,924円、月額4,327円増やすことができます

※ 経過的加算とは 老齢年金ガイド令和4年度版(日本年金機構PDF)
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf

健康寿命を念頭に「年金受給」と「家計支出」を見直す

誰の手助けもなく自立して健康に過ごせる「健康寿命」は、男性が約73歳、女性は約75歳です(厚生労働省2019年発表)。Iさんは、年配の親類や会社の先輩の最近の様子から、自分の人生に残された時間を実感しているそうです。

 

Iさんは、少しでも健康寿命を延ばそうと70歳までは働くことにしました。

 

肝心の年金受給年齢は、家計面で、60代後半以降少しでも生活費に余裕を持たせたいと考え、65歳から勤める会社の給与を念頭に、当面、「老齢基礎年金」は繰下げて70歳から受給し、「老齢厚生年金」は65歳から受給して「加給年金」も受給することにしました。

 

こうすることで奥さんは、Iさんが68歳になったタイミングで老齢厚生年金を受給します。

 

もしそのときまでに生活の余裕ができれば、奥さんの年金受給開始時期も繰下げる予定です。そして、Iさんが70歳を過ぎたら、奥さんの繰下げた年金から受給を始め、Iさんの老齢基礎年金はさらに加算するために繰下げます。ここは机上だけの計画で終わらないようにしたいところです。

 

また、IさんはこれからNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で、投資信託を運用しようと思っていましたが、長期的に分散投資をするには年齢的にむずかしいと断念しました。しかし奥さんは、少額で運用を試みるそうです。

※ NISAとは
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html

 

Iさん夫婦は、相談したことによって今後の収入や年金受給額の目安がつき、家計支出の見直しや削減が容易になったとのことです。

 

 

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員
 

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