インフレの原因の1つは人口増加
■ディマンドプル・インフレ
ここまで説明した理屈は、主にミクロ経済学における価格と数量の関係です。いっぽう、経済圏全体の動きについて、主に所得面から分析するのがマクロ経済です。マクロ経済の分野にも、似たような需要曲線と供給曲線があり、これを用いて、価格と経済全体の動きを知ることができます。
マクロ経済で用いる総需要曲線と総供給曲線は、縦軸に価格、横軸に国民所得(実質GDP)を取るグラフになります(図2)。
これは、ミクロ経済の需要曲線と供給曲線とは異なる方法で導き出されたものですが、実質GDPは生産数量と言い換えることができますから、両者にそれほど大きな違いはないと考えて差し支えありません(両者の違いを本格的に理解したい方は、ミクロ経済学とマクロ経済学のしっかりした教科書を参照してください)。
ミクロ経済における需要曲線と供給曲線と同様、何らかの理由で経済圏全体の総需要が増加すると、総需要曲線は右側にシフトし、総供給曲線との交点も右に動いて、価格が上昇します。これとは逆に経済全体の需要が減った場合には、グラフの交点が左にずれ、その分だけ価格は下落することになります。
図2は経済全体の動きを示したものですが、需要(ディマンド)が増大する(総需要曲線が右にシフトする。図2内の左側)ことで価格が上がり、インフレを誘発しています。こうしたインフレを「ディマンドプル・インフレ」と呼びます。
では、経済圏全体で需要が増えるのはどのような時でしょうか。
もっともわかりやすいのは、人口の増加と経済成長です。当たり前のことですが、人口が増えれば、その分だけ消費される商品の量は増えていきますから、全体の需要は増大します。
今回発生しているインフレの原因の1つは、実は人口増加です。日本は極度に高齢化が進み、今後は人口が減っていきますが、米国はその逆で出生率も高く、人口の増加が見込めます。新興国の多くはもっと出生率が高く、地球全体の人口は当面、増加が予想されています。人口が増えて需要が増えると、より多くの商品が必要となりますから、先ほど説明した通り、需要曲線は右側にシフトすることになります。
人口の増加に加えて、今回のインフレは経済成長も大きく関係しています。中国や東南アジアが典型ですが、新興国は経済成長を加速させており、それにともなって消費が急拡大しています。今後はさらに多くの国が豊かになると予想されますから、全世界の需要は増大するとの見方が大半です。結果として需要曲線が右側にシフトし、価格が上昇していく流れが顕著となっているのです。