スタグフレーションを乗り切った米国レーガン大統領の奇跡とは (※写真はイメージです/PIXTA)

今後、ロシアのウクライナ侵攻の影響がより深刻化し、経済の供給制限が強くなった場合、世界経済は景気の悪化とインフレが同時進行するスタグフレーションに陥る可能性も考えられます。世界経済はどのように動くのでしょうか。加谷珪一氏が著書『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』(祥伝社新書)で解説します。

物価のコントロールが難しくなる局面

■量的緩和策のデメリット

 

今回のインフレについて、一部の専門家は、物価のコントロールが難しくなる水準まで進むのではないかと危惧しています。筆者は現時点では少々懐疑的ですが、厳しい見解が出ているのには理由があります。それは、ディマンドプル型とコストプッシュ型が同時発生していることに加え、量的緩和策によるマネーの大量供給という貨幣的要因が絡んでいるからです。

 

前回説明した価格の仕組みは、実体経済における需要と供給の関係で成り立っています。つまり、価格を決定するのは現実の経済活動であって、貨幣の存在は無関係であるとの考え方です。このような考え方を、経済学では「貨幣の中立性」と呼びます。

 

貨幣が中立的である場合、貨幣は商品の交換を媒介するだけの存在であり、物価に影響を与えることはありません。したがって、世の中に出回るお金の量が2倍になれば、単純に全体の物価が2倍になるだけで、実質的な経済に変化は生じないことになります。

 

もし、この理屈が普遍的に適用できるのであれば、貨幣の量が増えて全体の物価が上がっても(つまりインフレになっても)、お店の値札が変わるだけであり、私たちの生活に大きな変化は生じません。確かに、経済の動きを長期的に観察すると、貨幣の量が経済全体を変えることはなく、貨幣は実体経済に対して中立的であることがほぼ検証されています。

 

ところが、短期的に見ると、必ずしもそうとは言えない部分があります。人は社会に出回る貨幣の量が変化すると、大きな影響を受け、経済的な行動を変えてしまう可能性があるのです。また貨幣の量が変わると金利も動き、金利の変化は人々の行動を大きく変容させます。場合によっては、貨幣の量を増減させることでインフレやデフレを加速させてしまうことも十分にありえるのです。

 

こうしたメカニズムは現実の政策にも応用されています。市場に供給される貨幣を調整することで物価を動かす政策と言えば、やはり量的緩和策ということになるでしょう。量的緩和策は、中央銀行が積極的に国債を購入することでマネーを大量供給し、市場にインフレ期待(物価が上昇すると皆が考えること)を生じさせる政策です。

 

期待インフレ率が高くなると、理論上、実質金利(名目金利から期待インフレ率を引いたもの)が低下するため、企業はお金を借りやすくなります。銀行の融資が拡大して、企業が設備投資を増やせば、経済全体で需要が増え、景気が良くなるという仕組みです。

 

量的緩和策が実施された当時の世界経済は、リーマン・ショックによってデフレに突入する可能性が高くなっており、名目上の金利についてもこれ以上、引き下げることが難しい状況でした。このため、逆に物価を上げて、実質的に金利を下げようというのが量的緩和策の狙いということになります。

あなたにオススメのセミナー

    経済評論家

    仙台市生まれ。1993 年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP 社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、ニューズウィークや現代ビジネスなど多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。
    主な著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『脱日本入門』(文藝春秋)、『日本は小国になるが、それは絶望ではない』(KADOKAWA)、『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)、『ポスト新産業革命』(CCC メディアハウス)、『戦争の値段』(祥伝社黄金文庫)などがある。
    オフィシャルサイト:http://k-kaya.com/

    著者紹介

    連載節約だけでは乗り切れない!「スタグフレーション」の恐怖

    本連載は加谷珪一氏の著書『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    スタグフレーション――生活を直撃する経済危機

    スタグフレーション――生活を直撃する経済危機

    加谷 珪一

    祥伝社新書

    2022年に入り、多くの商品で値上げが続いておりインフレの様相を呈しています。専門家の多くが「デフレ」を大合唱していた数年前から、現今の情勢を予測・発表してきた著者は、円安という特殊要因が加わる日本ではさらに厳しく…

    戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

    戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

    加谷 珪一

    祥伝社

    2022年2月、ロシアは国際社会の意向を無視し、ウクライナ全土に侵攻しました。 ロシア経済が抱える基本的な問題や軍備との関係性、地政学的な野心について分析していますが、多くの項目が今回のウクライナ侵攻につながってい…

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    登録していただいた方の中から
    毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
    TOPへ