(※写真はイメージです/PIXTA)

外資系企業に勤めている方でも、残業代を請求することは可能です。籾山善臣弁護士(リバティ・ベル法律事務所 代表弁護士)が、外資系企業でも残業代をもらえる理由、外資系企業が残業代を支払わない手口、日ごろから外資系企業で働く方に集めておいていただきたい証拠について解説します。

「残業代を支払わない外資系企業」の6つの手口

外資系企業は、実際には、残業代を支払わなければいけないケースであっても、残業代の支給をしていないことがあります。

 

具体的には、外資系企業が残業代を不支給とする手口としては、以下の6つがあります。

 

手口1:全員に役職名をつけて管理監督者と扱う

手口2:年俸制を理由に残業代の支払いを拒絶する

手口3:裁量労働制を理由に支払いを拒絶する

手口4:リモートワークにして労働時間の管理をしない

手口5:残業時間が長いと低評価をつけて申告しづらくする

手口6:固定残業代を導入している

 

それではこれらの手口に関して、実際には残業代を支給すべきケースがあることについて、順番に説明していきます。

 

■手口1:全員に役職名をつけて管理監督者と扱う

外資系企業が残業代を不支給とする手口の1つ目は、全員に役職名をつけて管理監督者と扱う方法です。

 

労働基準法でいうところの、時間外手当や休日手当を支払わなくてもいい管理監督者というのは、以下の3つの要素を満たすものに限定されています。

 

①経営者との一体性(経営権や人事へ大きな影響力があるか)

②労働時間の裁量(働く時間や休みの日を自分だけで決められるか)

③対価の相当性(残業代をもらわなくてもいいほどの対価をもらっているか)

 

仮に、管理職としての役職名が付与されていても、上記の3つの要件を満たさなければ、残業代を支払わなくていいとはいえないのです。

 

外資系企業では、ほとんどの社員に対して、「XXリーダー」、「XXマネージャー」などの役職が与えられていることがあります。

 

しかし、これらの役職が与えられている場合であっても、実際には、役職としての権限はほとんど付与されていないケース、日本でいうところの主任、部長、課長程度の権限しか付与されていないケースがほとんどです。

 

そのため、役職名をつけられている場合であっても、法律上は管理監督者には該当せず、残業代を請求できる可能性があります。

 

■手口2:年俸制を理由に残業代の支払いを拒絶する

外資系企業が残業代を不支給とする手口の2つ目は、年俸制を理由に残業代の支払いを拒絶する方法です。

 

しかし、年俸制が採用されていたとしても、それ自体は残業代の支払いを拒むことができる理由にはなりません。

 

裁判例も、年俸制適用者については時間外労働手当は支給しないと定めた就業規則を無効と判示しています(大阪地判平14.10.25労判844号79頁[システムワークス事件])。

 

そのため、年俸制を採用している外資系企業であっても、残業代の支払いを拒むことはできないのです。

 

■手口3:裁量労働制を理由に支払いを拒絶する

外資系企業が残業代を不支給とする手口の3つ目は、裁量労働制を理由に支払いを拒絶する方法です。

 

裁量労働制とは、一定の業種の方について、実際の労働時間数に関わらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度です(図表2)。

 

[図表2]裁量労働制

 

そもそも裁量労働制については、法律で定めたられた条件を満たしていなければ、適用することはできません。

 

例えば、よく見るのは裁量労働制を適用できる対象として規定されている業種に当たらないにもかかわらず、裁量労働制がとられているケースです。

 

また、仮に、裁量労働制を適用できるとしても、法定労働時間を超えて労働したとみなされる時間が法定時間外残業時間となりますし、法定休日労働や深夜労働については通常どおり残業代が発生します。

 

そのため、裁量労働制が採用されている場合であっても、残業代を請求できることが多いのです。

 

■手口4:リモートワークにして労働時間の管理をしない

外資系企業が残業代を不支給とする手口の4つ目は、リモートワークにして労働時間の管理をしない方法です。

 

リモートワークでも、以下の2つの条件を満たしている場合には残業代の支払いが必要となります。

 

①会社からの指示があること

②プライベートと業務時間を区別していること

 

しかし、実際には、リモートワークの場合において、十分な時間管理をしていない会社が多く、所定の始業時刻から終業時刻のみを労働時間とされてしまうことがあります。

 

このような場合には残業代を請求できる可能性がありますが、リモートワークという性質上、社内で残業していた場合以上に、しっかりと証拠を残しておく必要があります(証拠については、後述します)。

 

■手口5:残業時間が長いと低評価をつけて申告しづらくする

外資系企業が残業代を不支給とする手口の5つ目は、残業時間が長いと低評価をつけて申告しづらくすることです。

 

外資系企業は、成果や人件費に関してドライですので、たくさん働いても評価されるわけではありません。

 

他の従業員と同じ成果しか出せていないのに、労働時間が長ければ、低い成績をつけられたり、ミーティングで改善を求められたりします。

 

そのため、長時間の残業をしても、正確な時間を申告すると会社からの成績が下がってしまうリスクがあるため、残業時間を申告しにくいのです。

 

■手口6:固定残業代を導入している

外資系企業が残業代を不支給とする手口の6つ目は、固定残業代を導入する方法です。

 

固定残業代とは、実際に残業をしたかどうかにかかわらず、一定の金額を残業の対価として交付するものです。みなし残業代とも言われることがあります。

 

例えば、基本給の内8万円分は30時間分の残業代として支給するとされているケース、基本給とは別に30時間分の固定残業手当を支給するとされているケースなどです。

 

固定残業代が支払われている場合であっても、その固定残業代が想定する時間後を超えて残業をした場合には、差額の残業代を支払う必要があります。

次ページ残業代を請求するには?集めるべき「8つの証拠」

※本連載は、リバティ・ベル法律事務所が運営する法律情報サイト『リーガレット(https://legalet.net/)』のコラムを転載したものです。

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