慰謝料の相場は20万円~100万円程度
外資系の行き過ぎた退職強要行為は、法律上も違法になります。なぜなら、労働者は退職勧奨に応じる義務はありませんので、会社が退職を促す場合には、労働者の自由な意思を尊重する形で行わなければならないためです。
例えば、あなたが労働者に嫌がらせをしたり、不利益な取り扱いをしたりして、強制的に退職させることは許されないのです。
日本アイ・ビー・エム事件(東京地判平成23年12月28日労経速2133号3頁)でも、退職勧奨について、「労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず、そのようなことがされた退職勧奨行為は、もはや、その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。」と判示されています。
ただし、仮に、外資系の行き過ぎた退職強要行為が違法になったとしても、現行の裁判例の傾向からは、認められる慰謝料の金額は20万円~100万円程度であり、決して高くありません(図表3)。そのため、外資系から行き過ぎた退職強要を受けた場合でも、慰謝料に期待して安易に退職に応じてしまうというのは非常にリスクが高いのです。
外資系でパワハラを受けた場合の対処法
あなたが外資系からパワハラを受けた場合には、正しい方法により対処していただくことが大切です。
具体的には、外資系企業からパワハラを受けた場合の対処法は以下の4つです。
方法1:退職すると安易に口にしない
方法2:パワハラの証拠を集める
方法3:安易に診断書を提出しない
方法4:書面でパワハラをやめるように警告する
それでは各方法について順番に説明していきます。
■方法1:退職すると安易に口にしない
外資系からパワハラを受けた場合の対処法の1つ目は、退職するとは安易に口にしないことです。
外資系におけるパワハラは自己退職に追い込むために行われていることが多くあります。しかし、このような追い込みを受けても労働者が退職に応じない場合には、パワハラ的な退職の強要ではなく、パッケージ(特別退職金)の提示などに方向性が切り替わることがあります。
これに対して、一度、退職するという言葉を口にしてしまうと、退職を前提に手続きを進められていってしまい、パッケージ(特別退職金)の提案なども行われません。
労働者の働く意思が希薄化している状況では、会社側も退職の条件を提示する動機が乏しくなるためです。
また、退職すると口にするだけではなく退職届に署名押印までしてしまうと、それ以降、会社と退職条件等の交渉を行うことはほぼ不可能となってしまいます。
そのため、次の再就職先が確保できていない状況で、退職に応じると安易に口にしてしまうと、再就職までの生計を維持することも難しくなってしまいますので、注意しましょう。
■方法2:パワハラの証拠を集める
外資系からパワハラを受けた場合の対処法の2つ目は、パワハラの証拠を集めることです。その理由は以下の2つです。
●理由1:外資系業の退職強要が違法であることを説明するため
●理由2:解雇するだけの理由がないことを説明するため
まず、理由1ですが、ミーティングや退職勧奨時の発言等については、「言った言わない」になることが多く、細かい言い方やニュアンスなどについては主観も関わってくるため、証拠が大切となります。
次に、理由2ですが、会社側は、低い成績評価やミーティングの議事録、PIPの未達成などを、能力が不足していて改善の余地がない証拠として提出してきます。そのため、あなたの能力が不足していたわけではないことをしめすための証拠や上司がどのように業務の改善を指導していたかの証拠が大切となります。
そのため、具体的には、以下のような証拠を集めておくといいでしょう。
●ミーティングやフィードバック、退職勧奨の録音
●業務改善や退職勧奨に関するメールのやり取り
●成果を出すことができなかった事情を説明する資料、又は、十分な成果を出していることを裏付ける資料
■方法3:安易に診断書を提出しない
外資系からパワハラを受けた場合の対処法の3つ目は、診断書の提出はリスクを知った上で行うことです。
確かに、診断書でうつ病や適応障害などの精神疾患の認定がされている場合には、あなたの受けた精神的苦痛の大きさを証明するための1つの材料となります。
しかし、前記のようにそもそも退職強要による慰謝料金額の相場はとても低廉な金額となっています。診断書を提出したとしても、この金額が劇的に上昇するといわけではありません。
これに対して、診断書を提出してしまったことにより、不利益を被ってしまうケースもあります。例えば、診断書に「業務の遂行が困難であり、1ヵ月間の自宅療養を要する」などと記載されているケースです。
このような場合には、会社は、就業規則に基づいて休職命令を出してきますが、その期間は無給との対応をとられることがよくあります。
そして、うつ病や適応障害は、退職強要行為とは関係ない私傷病に過ぎないとして、会社から労災の申請や休業期間中の損害の賠償をしてもらえないことが多くなっています。
労災については、自分で申請することもできますが、精神疾患の労災の認定は長期間を要し、かつ、認定率は低いため、労災と認めてもらうハードルは高くなっています。
更に、復職したいと考えて復職可能との診断書を提出しても、産業医からは復職困難と言われることもあり、休職期間満了による自動退職として処理されてしまうこともあります。
そのため、業務の遂行が困難との診断書の提出する際には、休職を命じられて無給となるリスクがあることを覚悟しておくべきです。
■方法4:書面でパワハラをやめるように警告する
外資系からパワハラを受けた場合の対処法の4つ目は、書面でパワハラをやめるように警告することです。
外資系から退職勧奨を受けたり、自宅待機を命じられたりした場合には、これをやめるように警告する書面を送付するのが効果的です。
書面を送付する際には、証拠とするために、発言の内容や態様を具体的に記載したうえで、内容証明郵便で送付するのが良いでしょう。
ただし、退職勧奨を受けたり、自宅待機を命じられたりする段階に至っている場合には、書面を送付する前に、一度弁護士に相談した方が良いでしょう。
外資系の退職強要型のパワハラ、どこに相談すべき?
外資系の退職強要型のパワハラの相談先は、弁護士がおすすめです。
一般に、ハラスメント問題の相談先については、「社内通報窓口」「労働組合」「人権相談」「労働局」「弁護士」があります。しかし、退職強要型については社内通報窓口に通報したところで、会社自体が主体となって行っているものであるため解決は図れません。
また、外資系企業については労働組合自体が少なくなっております。加えて、退職勧奨が相当性を逸脱しているかについては法的な評価が関わってくるため労働局からの助言や指導も期待が難しい状況となります。そのため、外資系の退職強方のパワハラについては、弁護士に相談するのがおすすめです。
ただし退職強要事件の対応については、専門性が高い分野であるため、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇された場合の見通しを分析したうえで、あなたの意向を踏まえて、外資系企業の性質に応じて適切に方針を策定する必要があります。
解雇や退職勧奨事件に力を入れており、特に外資系企業とのパッケージ交渉についても圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
また、法律事務所によっては、依頼者の方の負担を軽減するために着手金無料、完全成功報酬としているところもあります。無料で初回相談を受けられる法律事務所もありますので、まずはお気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
この記事が外資系企業からパワハラを受けていて困っている方の助けになれば幸いです。
籾山 善臣
リバティ・ベル法律事務所 代表弁護士