(画像はイメージです/PIXTA)

母親が亡くなり、3姉妹に相続が発生しました。実家は借地上に建つ築古の戸建て。長女は実家を「地代も解体費用も必要なマイナス資産」としたうえで、預金は3分割でいいと恩着せがましくいいますが、次女は借地には価値があるため、無償で自分のものにするのはおかしいといって譲りません。果たしてどちらが正しいのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

借地は「土地に賃料を支払って借りているだけ」?

借地上の建物に住んでいる方は、それほど多くはないかもしれません。「借地」というのは、土地を賃貸借契約により借りている場合をいいます。すなわち、借地は「土地に賃料を支払って借りているだけ」ということになります。

 

しかし、この借地は、建物を所有する目的で土地を借りた場合は、強力な権利として認められており、財産権となることから、亡くなった方が借地上に建物を持っていた場合は、注意が必要となります。

 

以下、説明をしていきます。

借地権は取引上「財産権」として取り扱われる

借地は、土地の賃貸借契約です。資材置き場や駐車場も、土地の賃貸借契約です。しかし、法律上、保護されているのは、建物所有目的の土地の賃貸借契約のみです。資材置き場や駐車場としての利用を目的とした賃貸借契約は、法律上保護されておらず、契約上の期限が来たら終了となります。

 

これに対し、建物所有目的の土地の賃貸借契約は、借地借家法で保護されており、契約期間が満了しても、貸主に正当な事由がない限り、更新を拒絶することができません。

 

この建物所有目的の賃貸借契約上の借主の地位を「借地権」と呼んでいます。

 

この借地権は、貸主の承諾を得て譲渡することも可能です。貸主が承諾しない場合は裁判所で譲渡について許可を取得することも可能です。

 

このように借地権は、法律上、強力な権利として保護されていることから、取引上財産権として取り扱われています。

 

そこで、相続の際にも、税務申告の際にも、借地権は財産権として取り扱われます。

借地権の価値は、どのように評価するのか?

では、借地権はどのような評価をすればよいでしょうか。一般的には、国が出している路線価図に借地権割合も記載されており、この借地権割合によって評価するのが普通です。

 

路線価図によると、世田谷区の借地権割合は、60%のところが多いようなので、この数字を使って説明します。

 

また、ネットの情報では、世田谷区の土地の相場は1㎡あたり57万円くらいということなので、この金額を使わせていただきます。

 

秋江さんが相続する建物の敷地は100㎡とすると、所有権価格で5,700万円となります。

 

これに借地権割合60%を乗じた3,420万円が借地権の価格ということとなります(厳密には、賃貸借契約の残存期間や更新料などの条件により評価額は変わってきます)。

 

築30年の建物は固定資産税評価額で150万円だとしても、実際上は無価値と判断される可能性が高いと思います。

 

そこで、秋江さんの実家である借地権付建物は「3,420万円」と評価されることとなります(相続税申告の際の評価は異なります)。

預金を均等に分けても、長女が3,420万円分多くなる

長女の春美さんが、この借地権付建物を相続するとすれば、預金6,000万円を3人で平等に分けたとしても、3,420万円分春美さんが多く相続したこととなります。

 

夏子さんと秋江さんがそれでよいというのであればそれでよいのですが、平等に分けるということであれば、春美さんは、借地権付建物を相続する代わりに代償金として3,420万円の3分の1である1,140万円ずつ夏子さんと秋江さんに支払う必要があります。

 

したがって、「借地権は、契約上、地代を支払う必要はあるし、建物を解体して返さなければならず、お金がかかるのでマイナスの資産だから0円の評価となる」という選択肢①は誤りで、「借地上の建物には借地権が付いており、借地権は譲渡もできる財産であり、春美さんが取得するのであれば、他の相続人に代償金を支払う必要がある」という選択肢②が正解となります。

 

実際に遺産分割する際には、全体の遺産が借地権付建物3,420万円、預金6,000万円の合計9,420万円となりますので、1人あたりの相続分は3,140万円となります。

 

その場合は、春美さんが借地権付建物を相続するのであれば、預金を夏子さんと秋江さんが3,000万円ずつ相続し、春美さんが夏子さんと秋江さんの不足分140万円ずつを支払うという内容の遺産分割にするのではないかと思います。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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