①骨頭靭帯による直結
関節内で骨頭の頂点と臼蓋を靭帯で直接連結し、脱臼を防止します。膝関節にも十字靭帯がありますが、それ以外の関節にはないしくみです。
②関節唇による接触面積増大と陰圧効果
臼蓋の全周にある三角形の軟骨で、唇のように骨頭を取り巻いています。これによって接触面積を増大させて、骨頭を安定させます。また関節唇は骨頭に密着しており、関節内は陰圧になりますので、関節内に骨頭が吸い込まれて、脱臼防止になります。チュッパチャップスを口に入れ込んで吸った状態です。関節唇は肩関節と股関節しかなく、不安定性を補強する役目があります。
③関節包と強靭な斜走靭帯による引き上げ効果
関節包は臼蓋と骨頭を包むやわらかい布状組織ですが、その全周には強靭な靭帯で覆われています。
この靭帯は斜めに走っているので、股関節の屈伸で異なる作用を示します。机に垂直に立てた鉛筆を斜めにすると、鉛筆の長さは変わらなくても、机との距離が短くなるように、靭帯が斜めに捻じれると骨頭と臼蓋間は狭くなります。
つまり、90度屈曲すると靭帯はまっすぐになるので、骨頭は臼蓋から離れて緩み(遊び)ができ、胡坐(あぐら)をかくことができます。しかし、股関節を伸展(歩行時)させると靭帯は強く斜めに捩じられて、骨頭は臼蓋に引き寄せられ股関節は安定します。本当に絶妙なしくみですよね!
④骨盤側面の中殿筋と小殿筋の押し込み
人間の大きなお尻は人類の特徴といわれています。直立二足歩行のために、上半身を起こすために殿筋が発達したためです。
殿筋には大殿筋、中殿筋、小殿筋がありますが、なかでも骨盤の後面から大腿骨の後面につく四角形の大殿筋が最も大きな筋肉です。
動物では立ち上がることが少ないために大殿筋は発達しておらず、ゴリラでもお尻は小さく可愛い、というわけです。しかし、蹴る力が強い中殿筋と小殿筋が人間より発達しています。
一方人間の中殿筋と小殿筋は「立つための重要な筋肉」として発達し、骨盤の広い側面から大腿骨の側面上端(大転子図表7の赤丸)につく逆三角形状の筋肉は効率よく作用し、大腿骨の骨頭を臼蓋に押し込み、安定させます。つまり、中殿筋と小殿筋はお尻の筋肉なのに、後ろではなく、横についているのです。
ハイヒールを履いてマリリンモンローのように美しく歩くためには、中殿筋が重要となります。ちなみに、歩行時などで片足になると、中殿筋には体重の3倍、骨頭には体重の4倍の負担がかかります。このことを考えると体重増加は股関節の変形につながるため、やはり減量は大切だといえます。
⑤腸腰筋の前方押し込み効果
腸腰筋は腰椎前面からの大腰筋(図表9の緑色の)と骨盤内側からの腸骨筋(図表9の茶色の)が途中で一緒になり、骨盤内側から恥骨上面(腸恥隆起部)を滑るように出て、股関節前面を通ってから後方に強く屈曲して、大腿骨の内側後面の突出部(小転子:図表9の赤丸)に付きます。
従って、腸腰筋は立位伸展では非常に緊張して骨頭を押し込みますが、座位などの屈曲では緩むことになります。陸上競技、特に短距離競技では腸腰筋による股関節の屈曲筋力が重要視されていますが、腸腰筋が発達しすぎると、恥骨の腸恥隆起部で擦れてゴツンと音がする弾発股の原因になります。
ほかにも、たくさんの安全装置がありますが、今回はここまでです。
★今日の教訓★
人間の進化は人生同様、驚きに満ちた「ビックリ箱」。だから、面白い!
三上 浩
医療法人 医仁会
高松ひざ関節症専門クリニック 院長