「まるで、ガラス細工なの…」スポーツを楽しみたい人は〈肩関節の繊細さ〉を理解しよう【整形外科医が解説】

「まるで、ガラス細工なの…」スポーツを楽しみたい人は〈肩関節の繊細さ〉を理解しよう【整形外科医が解説】

野球、テニス、ゴルフ、卓球、バドミントンなどなど、スポーツにはたくさんの種類がありますが、これらを楽しめるのは「肩甲骨があるおかげ」だと知っていますか? じつは、肩関節の運動範囲がここまで大きいのは人間ぐらいで、ほかの動物にはこのような特徴はほとんど見られません。人間の肩はなぜ、このように進化したのでしょうか。ベテラン整形外科医が解説します。

スポーツを楽しめるのは「肩甲骨」のおかげ

メジャーリーグでは大谷翔平選手が華麗な投球フォームと豪快な打撃フォームで大活躍していますが、野球以外にも、テニス、バレーボール、バスケット、ゴルフ、バトミントン、卓球などは、健康のための身近なスポーツとして、日本でも広く普及しています。

 

こうした腕と肩を中心としたスポーツは、いずれも広い運動性(mobility)安定性(stability)が必要ですが、その要となるのが肩甲骨です。つまり、スポーツを楽しめるのは肩甲骨のおかげであり、「肩甲骨は健康骨」ともいえますね!

 

その一方で、一般的な動物は肩の運動範囲は狭く、猿やチンパンジーなどは木にぶら下がると腕は垂直に伸びますが、人間のような効率のいい投球動作はできません。

 

では、なぜ人間は投球動作が可能になったのでしょうか?

 

人間には鋭い角や牙、爪もなく、身体に武器があるとはいえません。また、身体の大きさ自体もマンモスなどの大型動物と比べると劣っているため、動物と渡り合うためには、角や牙の代わりに槍や石の武器を手で作り、接近せずに槍や石を遠くから正確に投げる腕が必要でした。

 

そこで、遠心力を得るために、腕を垂直から頭の後ろにまで振り上げる投球動作を繰り返した結果、進化の過程で広い可動域を得たと考えられています。

 

[図表1]人間が広い可動域を得たワケ

 

つまり、四足動物の腕(前足)は体重を支えるための安定性が必要でしたが、人間は立つことによって、腕には安定性ではなく、逆に広い運動性が求められるようになった、というワケです。

 

しかしながら、肩に広い運動性を得た代償として、不安定性の問題を抱えるようにもなりました。たとえば、プロの野球投手にみられる「肩を壊す」が代表例といえます。

 

そこで今回は、肩の運動性と安定性についてお話します。

肩は「盃とボール玉」で構成された、不安定な関節

肩関節は肩甲骨と上腕骨でできた球関節です。肩甲骨の関節面(関節窩)は小さくて浅く窪んでおり、上腕骨の関節面(骨頭)は大きな半球状であるため、「盃とソフトボール」のイメージです(肩甲上腕関節)

 

[図表2]肩甲上腕関節のイメージ

 

この組み合わせは接触面積が狭く、骨頭の動性は制限されにくいため、投球動作、後ろ手で帯を結ぶ、髪を結ぶ、といった行為に必要な広い運動性が確保されますが、一方の安定性は非常に悪くなります。

 

また、肩甲骨と上腕骨は並列に並んでおり、上腕骨骨頭を上から抑え込めないため、不安定性がさらに増加して「脱臼しやすい関節」、あるいは「運動性と安定性のバランスが悪い関節」といえます。

 

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