膝関節の進化…「直立した下腿骨」のメリットとは？

四足動物の膝は軽く屈曲、つまり下腿骨が前方に傾斜して歩行していますが、二足歩行する人間の膝はしっかりと伸展、つまり下腿骨が直立して歩行しています。これは動物からすれば過伸展になりますが、直立した下腿骨は体重を効率よく支持できるのです。ですから、人間が膝を曲げて歩きづらい経験からも実感できます。

膝関節は大腿骨、膝蓋骨、脛骨の3つの骨、そして半月板と十字靭帯からなる特殊な関節ですが、本記事は半月板の話ですので、大腿骨と脛骨、そして半月板についてお話します。

大腿骨は車輪、脛骨は坂道、半月板は車輪止め

大腿骨関節面を正面からみると、2つの丘状突出（顆部）をしており、側面からみると楕円状・円状をしていますが、後方では半円状であり、車の車輪といえます。膝が屈曲するのに好都合な形ですね（図表1左）。

一方、脛骨関節面は平面形状で約7度後方に下がっていますので、坂道といえます(図表1右)。脛骨が7度傾いているのは、膝の前方脱臼防止と正座、しゃがみ込みなどの深く曲げる動作に好都合だといわれています。しかし、膝の力学的安定性には不都合です。なぜなら、坂道では車輪が後方に滑ってしまうからです。

［図表1］左：車輪状関節面　右：平面上関節面

そこで車輪を支持するために、半月板が厚く進化したわけです。つまり、半月板は車輪の車止めとして機能しているといえます（図表2）。

［図表2］半月板の車輪止め作用

ここで注意が必要なのは、大腿骨関節面の前後長が、脛骨関節面の前後長よりも圧倒的に長いことです（図表1の緑線部）。つまり短い脛骨の関節面を大腿骨が回転（rolling）すれば、大腿骨は脱臼することになります。それを解消するために大腿骨は滑り（sliding）、つまり空回りすることで帳尻を合わせています（図表3）。

［図表3］回転と滑り

膝関節だけにある半月板、実際の形状は「新月板」!?

前述しましたが、坂道に車輪があれば転がるように、脛骨の「傾斜した平面」に大腿骨の「丸い顆部」で関節作れば、関節は不安定になります。これを解消するのが半月板です（図表2）。人体には多くの関節がありますが、「半月板があるのは膝関節だけ」です。いかに、膝が特殊な関節であることが伺えます。

半月板は関節の隙間を埋めるように前後内外側が高く、中心部が薄い楔（クサビ）状形態で関節面周囲を覆っていますが、中央で内側と外側に分かれます（図表4）。

［図表4］左：膝関節正面　中央：膝関節側面伸展　右：膝関節側面屈曲

 

半月板の名称の由来は、上から見ると半月に見えることから半月板といわれています。風流ですが、形からすれば「半月よりも新月」が正しい（図表5）かもしれませんね！

［図表5］内外側半月板上面

半月板は少し硬い軟骨でできていますが、歪むことができるのが特徴です。従って、脱臼の防止にも有効とされています（図表6）。

［図表6］半月板の脱臼防止作用

まるでボロ雑巾！ ひどくすり減った高齢者の半月板

半月板は関節軟骨同様に血流が乏しいので、半月板損傷時には若年者以外修復は困難とされています。そこで、一般的な治療方法としては健常部を残して断裂部を切除するのが通常です。これにより、lockingといわれる特有の引っ掛かりは解消できます。しかし、これで治ったわけではなく、半月板の車輪止め効果は消失しますので膝は不安定となり、将来的には変形性膝関節症の原因の一つとなりますので、もろ手を挙げて喜んではいられません。術後のリハビリが大事です。

一方、高齢者の半月板は大腿骨と脛骨の間に挟まれて、長年にわたって圧迫を受け続けてきましたから、半月板は一部の断裂ではなく、半月板全体が「使い古された雑巾」のように、ボロボロの状態になります。とくに屈曲時には内側半月板を中心に捻じれて損傷しやすいので、変形性膝関節症の大きな原因となります。頻繁にしゃがむ和式生活から、洋式生活に変えていくことが大事です。

★今日の教訓★　

関節も半月板も血行がないので、いったん損傷すると修復はされないとされています。体の仕組みを正しく理解し、自分の健康に活かしましょう！

三上 浩
医療法人 医仁会
高松ひざ関節症専門クリニック 院長