このフル/ハーフライフの考え方を先程の企業価値に組み込むと、そのモデルは図表42になります。当然ですが新造機はフルライフですので、そこから使用時間に応じて徐々にハーフライフから使用限界(ゼロライフ)まで落ちていき、オーバーホールでまたフルライフに回復していくサイクルを繰り返していきます。※
ゼロライフからフルライフの差額(≒オーバーホールのコスト)は機種によってまちまちですが、ワイドボディ機になるとその額は4000万米ドルにもなることがあります。
したがって、この巨額なオーバーホール費用の負荷を分散させるため、整備積立金(メンテナンスリザーブ)として積み立て、将来のオーバーホールに備えることが好ましい状況ではありますが、エアラインによっては資金効率の悪化を嫌いリース終了時に一括して支払うこともあります。
整備のタイミング、費用は?
ベースバリューとハーフライフの関係性についてはご理解いただけたと思いますが、実際はすべての部品が同じ整備条件であることはないため、イメージ図のようにはいかず、各部品の整備タイミングを加味しながらバリュエーションを行っていくことになります。
整備のタイミングや費用は機種や航空会社によって異なりますが、一般的なナローボディの例として各項目について少しだけ具体的に触れると、航空機の機体は製造から6年、10年、12年経過した時にストラクチャルインスペクション(構造点検)という重整備が行われますが、その費用はおよそ80万米ドルといわれており、重整備直前の機体と直後の機体では価値が80万米ドル増加することになります。
次にエンジンについてご紹介すると、最近のエンジンは性能が向上し新造エンジンの場合、多くは限度である2万サイクル(飛行回数)まで分解整備(オーバーホール)なしで使用することができるといわれています。
オーバーホールではLLP(LifeLimitedParts:ライフリミテッドパーツ)の交換も行っていきますが、LLPとはエンジン内部で高速回転する軸、タービンやコンプレッサーのブレード(翼)がついているディスクといわれる部品等で、1基あたり350万米ドル程度する非常に高価な部品です。
LLPはエンジンの性能に大きく関わる主要部費ですので、安全のため2万から3万サイクルで交換、廃棄しますが、航空会社は年間2000から2500サイクル程度運航するため、最初のオーバーホールは8年から10年程度で到来します。
参考までにエンジンのオーバーホールにかかる費用を概算すると、最初のオーバーホールで1基あたり450万米ドル、2回目のオーバーホールは1機当たり600万米ドルかかるともいわれております。ナローボディ機にはエンジンが2基ついていますので、エンジンのオーバーホールの総額は10億円を超えることもあるのです。
残りのランディングギア(着陸装置)のオーバーホール費用は45万米ドル程度、エンジンの始動などに必要な電力、圧縮空気を作り出すAPU(AuxiliaryPowerUnit:補助動力装置)の費用は25万米ドル程度ですので、オーバーホールの前後で必要となる整備費は合計で15億円~20億円程度になり、その分だけ航空機価値が変動するので注意が必要です。
※通常は使用限界ギリギリまでオーバーホールを行わないことはなく、ある決められた猶予をもって行う。これをスタブライフと呼び、例えばこれが95%となっていた場合、使用可能時間の95%を切る前にオーバーホールを実施する。