遺言もせずに亡くなってしまうと、残された家族は思わぬ憂き目に遭うかもしれません。今回は優司法書士法人、上村拓郎代表のもとへ相談のあった、遺言がないために悲劇を生んだ「子のいない夫婦の相続事例」を紹介します。
※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

遺言作成時、注意すべき「遺留分」

僕の義父の話です。義父は、疎遠になっている子がいることをわかっていたはずでした。ただ、それによって、残された家族同士での争いの可能性が増すということを考えていたかは不明です。

 

例えば、先妻との子どもと離れて暮らしているからといって、その子どもの相続権が無くなるわけではありません。その子どもにもしっかり相続権があります。そのことをかたくなに信じない方がおられます。相続では一緒に過ごした時間ではなく、血がつながっているかどうかが重要なので、疎遠になっている子どもを含めた相続をどうするか遺言書にしっかり残しておかなければなりません。また、名義変更が必要なもの(例えば不動産)はあらかじめ対処しておくことも大事です。

 

遺言もせずに亡くなってしまったら、すべての相続手続きにおいて、その先妻との子どもから実印をもらわなくてはなりません。会ったこともない、同じ立場の相続人に話をするだけでも、大変な作業です。その方がどんな方かもわかりません。どんな状況に身を置いているかも不明です。自分が何らかの権利をもっていることを知って、強く主張なさる方もいます。

 

また、先妻との子どもには、苦労をかけたので現在の家族と先妻との子どもに財産を残したいと考えられる方もおられるかと思います。いろいろなことを考えて想いを残すことが大事になります。残された家族は遺言者の想いを知ることで、スムーズな権利承継が進められるケースもあります。

 

しかし、逆にその残された遺言が、さらなる争いの火種となることもあります。遺言書作成において注意したいのが、「遺留分」を考慮した内容に仕上げるということでしょう。遺留分とは、相続人に法律上保障された一定の割合の相続財産をいいます。

 

例えば、複数人の相続人がいるとき、「OOO(特定の相続人)にすべての財産を相続させる」という遺言が残されていたとします。このとき、全財産を取得する相続人に対して他の相続人は、法律で保障された一定の割合の財産を得ることを主張できるのです。したがって遺言書を作成するときは遺留分に見合う財産を配分する内容にすることも一案になります。

 

しかし、主張のできる人、できない人がいることは頭に入れておかなければいけません。相続順位の第三順位である兄弟姉妹や甥や姪には、遺留分はありません。遺言書作成のときは、ぜひ考慮しておきたい部分です。

 

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※本連載は、上村拓郎氏の著書『相続をちょっとシンプルに: 気づきをうながすためのケアフル相続入門』(灯光舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門

相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門

上村 拓郎

灯光舎

自分だけでなく、家族や身のまわりの人たちと一緒に相続を考えるきっかけにしてもらいたい本。 本書は、相続対策の実務よりも、まずは相続を知るために「読む」ことを意識した相続エッセイです。相続は発生してからではなく、…

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