資金繰りをするだけでは「プロ」とは言えない
「財務のプロ」と言うと、テクニックの話と思われがちだが、プロか、そうでないかを分ける決定的な点が、事業や設備投資を含めた「将来意思決定」をできるかどうか、である。この点は「CFOは企業経営者である」こととも深くかかわってくる。つまり、将来のビジョンを描くCEOと、機をみて敏に動くCOOに対して、どこまでの行動が許されるかを冷静に判断して実際の舵を取れるのがCFOなのだ。
ここで、注意しなければならないのが、単なる資金計画と、投資を含めた将来意思決定とは、似て非なるものだという点だ。年間に稼げるキャッシュがいくらだから、1年間にこれくらいの借入金を減らし、自己資本比率を今期末時点で何%にしたい、あるいは今期いくらの設備投資をするから、それに必要な資金としていくらを借りる、といった財務戦略は、ある程度の知識があれば立てることができる。
これらの能力に加えて、最も重要なのが、将来への視点だ。事業や設備投資を決定する際に、目先の資金繰りだけをみていたのでは、財務のプロとは言えない。財務の知識があることは必須条件だが、それを道具として使い、どこを削ってどこに投資していくかを決めていくことが、会社の将来を左右することになる。CFOは事業を「面」で見るが、財務部長は「点」でしか見ない、とも言い換えられるだろう。
単なる財務部長・経理部長には望めない高い能力
とはいえ、細かい財務の知識のない人材は、CFO失格だ。資金調達に目を移してみよう。資金の調達は取引金融機関に頼っていればよいという時代が長く続いてきた。だが、現在のように選択肢が多くなると、銀行借入や資産の流動化、証券化などの手段の中から、その会社にとって最も有効な手段を選び出すことが必要になってくる。
お金は単に引っ張ってくればいいというものではない。その手段によって、B/Sの中身は大きく変動する。CEOやCOOは、資金さえ手に入ればその手段は問わない可能性があるが、CFOは、B/Sの中身によって会社が評価されることを知っている。
また、投資家から評価されるB/Sと、金融機関から評価されるB/Sは必ずしも一致しない。どのような資金調達が、今この会社にとってベストの選択かを判断できるのは、財務のプロフェッショナルであるCFOだけなのだ。
会社が海外進出した場合には、問題はさらに複雑になる。海外の現地法人で必要になる資金の調達について、本社から送金したほうが有利なのか、それとも現地法人が現地で調達したほうが有利なのか、為替や税務などの海外事情に通じていなければ判断は下せない。
あるいは決算においても、海外子会社と連結決算を組む際に、為替の動きによって決算にどのような影響が出るのか、税金はどこで払うべきなのか、即答できる社長はほとんどいないはずだ。日本企業は本業の原価低減に関しては、製品1コあたり円単位どころか、銭、毛単位で削減可能な項目を探し出し、低減に努める。だが、こと財務コストとなると、プロフェッショナルの手を借りれば減らせるコストに、意外と無頓着であったりする。
通常の財務部長や経理部長では望めない、プロフェッショナルならではのノウハウを持ち、専門知識がなければ気づくことすらできないあらゆる「変数」を組み合わせたシミュレーションを行ない、最善の方法を導き出すことができる存在がCFOだ。