時間の概念の置き換えが「時間不足」解消のヒントに
ここまでの話から、私たちは時間について2つの知見を得ることができます。
- 時間の流れ方は、時代や文化によって大きく変わる
- 時間の流れ方の認識は、私たちの時間不足の感覚に影響する
「時間は過去から未来へまっすぐ流れる」という認識は、あくまで機械式の時計が普及した近代以降のものです。
それ以前の世界においては、“時間”は終わりと始まりがつながった円環構造をなし、ゆえに当時の人々は「何かに追われる感覚」や「なぜかいつも忙しい感覚」に苦しむこともありませんでした。
要するに、時間不足の根本治療を目指すには、「時の流れ」の認識にも取り組まねばならないわけです。もちろん、そうは言っても、サン人や前近代の人々と同じ時間認識を私たちが身につけるのは難しいでしょう。
いかに四季がめぐろうが、いつもと同じような月曜日がくり返されようが、現代を生きる私たちにとっては、すべてが新しい季節であり、すべてが新しい月曜日としか思えません。現代人は「時間とは自分の外側に存在する客観的なものである」と考えることに慣れすぎ、前近代の時間を体感するのはかなりの難事です。
ただし、近年の研究によれば、私たちの時間感覚には、ある程度の柔軟性があることがわかってきました。「循環する時間」を体得するのは困難ですが、時計に人生をコントロールされない前近代の感覚を再現し、私たちが心から余裕を得ることは十分に可能なのです。
鈴木 祐
科学ジャーナリスト