あなたの時間の使い方を左右する想起の4パターン
それでは、あなたの時間感覚を左右する想起のパターンを見てみましょう。私たちの想起は、大きく4つの要素でできています。
- 想起が正しい:取り出した記憶が実際の出来事を反映している状態
- 想起が誤り:取り出した記憶が実際の出来事とは異なる状態
- 想起が肯定的:取り出した記憶の解釈がポジティブな状態
- 想起が否定的:取り出した記憶の解釈がネガティブな状態
はじめの2つは、脳が取り出した記憶の内容が「本当に正しいのか?」を問うポイントです。
実際は書類作りに3時間かかったのに「1時間ほどで完成した」と思い込んだり、そもそも作業自体の存在を忘れたりした場合、その想起は誤りと考えられ、あなたの時間の見積もりをゆがませます。
逆に想起が正しい場合は、時間の見積もり精度には問題が起きません。
続く2つの要素は、特定の想起をどのように解釈したのかを問題にしています。
たとえば、書類を3時間で作ったという事実に対して、「私は生産性が低い」と考えれば想起は否定的ですし、逆に「成果は上々だ」と思えば想起は肯定的です。
予期と同じように、あなたの想起も遺伝や環境によって異なり、それぞれの組み合わせで想起の“個体差”が生まれます。
ここでは四象限のマトリクスを使いましょう。想起は4つのエリアで成り立っています。
- 自信家(想起が肯定的で正しい):過去の記憶が正確で、イメージすべきことが明確な状態です。そのため時間の見積もりがうまく、生産性も高い傾向があります。ただし、想起が肯定的すぎる場合は副作用も出やすいので注意が必要です。
- 楽天家(想起が肯定的で誤り):過去の時間の使い方を間違って記憶し、さらにそれをポジティブに解釈している状態です。誤った記憶にもとづいて行動を起こすわりには、自分の能力への自信が大きいため、スケジューリングがうまくいかず、重要度が低いタスクに時間を浪費しやすくなります。
- 怖がり(想起が否定的で正しい):過去の記憶は正しいものの、その内容をネガティブにとらえている状態です。過去の嫌な体験を行動の基準に使うため、有益なタスクに手をつけられず、無為に過ごす時間が増えやすい傾向があります。
- 悲観主義(想起が否定的で誤り):記憶の解釈がネガティブなうえに、さらにその内容にも誤りが多い状態です。そのせいで将来が不安に満ちたものに感じられ、重要なタスクに取りかかるのを避けがちになります。
想起は肯否と正誤の組み合わせによって“個体差”が生まれ、この違いに適したテクニックを使わないと、あなたの想起は適切に機能しません。
鈴木 祐
科学ジャーナリスト