効率や合理性よりも、独創性を優先させる場に
そして具体的な目標として、スタートから2年後に複数の事業を開始することを決めました。メンバーは地元の中小企業者、宮崎大学(地域資源創成学部)、宮崎県立日向高等学校と農業高校の高校生、首都圏の副業・兼業人材、金融機関、報道機関、日向市および産業支援団体、日向地区中小企業支援機構などの人々で総勢約40人です。
全員が所属組織の代表ではなく自由な個人という立場での参加です。何か新しいことを始めようと話し合いの場をもっても往々にして「まだ早い」とか「変えすぎる」「お金が掛かり過ぎる」「たぶん許可が取れない」といったネガティブな言葉が出てきます。
しかし新しいアイデアは常に生煮えのものであり、それを論理で潰してしまうのは簡単なことなのです。そんなことをしていたらイノベーションは生まれません。「いいね!」「面白そうだ、やってみよう!」というポジティブな話法を心掛けていくことをまず約束しました。
また具体的な手法としてスタートアップ企業などが用いるビジネスモデルキャンバスを使うことにしました。
新事業創造に向けて「顧客は誰か」とか「提供価値は何か」、「サービスをどう届けるか」「コストはどれくらい掛かるか」「どのようにして収益を上げるか」など9つの要素に分解して検討を進めるというものです。このキャンバスを前提にすれば、決められた共通の土俵のうえで議論を拡散させることなく積み上げていくことができます。
さらにデザイン思考も意識しました。これまで必要とされてきたのは与えられた問題を速く正確に解く力です。しかし今求められているのはそもそも何が課題なのかを見極めるところから始め、これまでの常識や枠組みにとらわれない思考力や想像力を駆使して考えを組み立てていくことです。それを可能にするのがデザイン思考です。
市場のニーズをしっかりとらえて、それを満たすものかどうか問いかけと修正・改善を何度も繰り返しながら新たな価値を創り出していく取り組みです。
提供者本位から、マーケット本意へ
これまでは商品やサービスの提供側が自社の利益を拡大するために自社でつくれそうなものを自社の視点での分析や論理で一方的に組み上げ、それを解答として市場に送り出してきました。
何が最も求められているかということを考えるのではなく、何ができそうかという発想で行われた「プロダクトアウト」の追求だったということもできると思います。
しかし、それでは本当に魅力のある事業は創造できません。マーケットと親密に対話をして修正しながら前に進む「マーケットイン」の発想が重要なのです。
HICはスタート当初から大学生や高校生も正式のメンバーとして入ってもらっています。商品やサービスを受け取る側の思いや声を聞くにはこれからの担い手の力が必要だと考えたからです。
これまではたとえオープンイノベーションという名前が付いていても、単に大企業が自社にない技術をもつベンチャー企業と業務提携するとか、補完する技術をもつ複数の企業がグループをつくるとか、あるいは大学と技術や知財のやりとりをするといったものでした。これらは結局ある企業や企業グループの利益向上を実現するために進められるものだったのです。
しかし本来のオープンイノベーションは一企業の利益ではなく地域の発展という社会的な目的のために地域のステークホルダーである市民や企業、大学、行政がコラボレーションし対話しながらつくり上げていくものです。
そのためにはそれらのステークホルダーを一つにまとめる今までにない有機的なエコシステムが必要です。これまでの産学官連携組織MANGO、日向市産業支援センター「ひむか-Biz」、「次世代リーダー育成塾こころざし」の設立や活動展開、さらには多くの学生・高校生との交流の積み重ねがHICとして結実したと思っています。
地域循環型経済のために私の会社が貢献できること、そして自社の経営にもメリットになることを数々考え試みてきましたがその集大成がHICという地域イノベーションプラットフォームの実現でした。
島原 俊英
株式会社MFE HIMUKA 代表取締役社長
一般社団法人 日向地区中小企業支援機構 理事長