「餅は餅屋」をさか手にとった鉄工所、農業で大成功。得意分野を他分野に応用するうえで重要なこと

「餅は餅屋」をさか手にとった鉄工所、農業で大成功。得意分野を他分野に応用するうえで重要なこと
(画像はイメージです/PIXTA)

日本の中小企業の倒産件数は2016年以降、毎年4万件を超えています。中小企業が時代の変化に適応し存続していくポイントは、大企業の下請けから脱却し、主体的に地域創生に介入していくことです。少子高齢化に人口流出…。地方が抱える課題にこそビジネスチャンスが埋もれていると指摘する、「宮崎中小企業大賞」受賞した島原俊英氏が、著書でポイントを解説します。

地元・宮崎の農家の活性が課題に

私が住む宮崎県の農業は基幹産業で認定農業者数(法人)は全国5位、農業者などによる農産物の加工の年間販売金額は全国で4位です。畜産品も出荷量も多くブロイラーと豚は全国2位、肉用牛も全国3位です(農林水産省「令和元年農業産出額」)。私の会社も食肉加工機械の製造を行っており、非常に裾野の広い産業だといえます。

 

宮崎の発展を考えるなら農業振興はその中軸に据えられるべきです。しかしこの農業もさまざまな課題を抱えています。担い手の高齢化や後継者不足は深刻化しており、生産性の低さや付加価値を付けないまま出荷されることによる価格競争の激化や利益率の低さ、天候の影響による想定できない価格変動と収入の不安定さといったこともあります。

 

特に最近は、地球温暖化に伴うゲリラ的な豪雨の発生や台風の頻繁な発生などの異常気象が農業に大きな影響を与えています。

 

結局、各農家はJAに納めるという形で最低限の収入を確保することしか経営安定の道がないように見えます。天候による収入の不安が払拭できない限り、新たな設備投資もできません。地域全体を豊かなものにしていくためにはこうした農業の課題を解決し、地域を支える基幹産業として守り育てていくことが必要であり、それに貢献できないかと思いました。

 

私の会社は鉄工所で産業機械の製造をしているので一次産業である農業とは直接の接点はありません。しかし地元の企業として地域の抱える課題の解決に貢献することは私たちの使命です。

 

産業分野が異なるからといって農業を自分の問題として考えなくていいということはありません。地域循環型の経済を確立するためにも地域経済の大切な構成メンバーである農業と農家をさらに盛り立てていくことが地域に求められていると思います。

産業のノウハウで農家をコンサルするために

これまでは下請けという形が多かったものの、長年にわたり産業機械の製造に携わってきたことから、技術は最新のものがあります。

 

また、これまで培ってきた計画的な生産・品質、工程や労務、原価などを管理するさまざまなノウハウもあります。これらを駆使して生産工程の機械化のアイデアや効率的な管理手法などを農業分野に適用することで新しい農業の姿が展望できるのではないかと思いました。

 

農業を工業の視点で見直し補強するということです。その一つの方法としては農業用機械を新たにつくったり、ソフトウェアとして生産管理の仕組みをつくって提供するという形が考えられます。

 

しかし、これは農家に新たな設備投資や今までにない業務の習得や負担を求めることになります。現実的とは思えませんでした。

 

そこで私たち自身が工業のノウハウを注いだ新たな農業のスタイルを一からつくってみる、農業を工場化するという実験をまず自分たちでやってみてそこから教訓を汲み上げ、宮崎の農業の課題解決や活性化にものづくり企業として取り組んでみようと思いました。

 

つまり、実際に農家となって農業に取り組むことを考えたのです。そのなかから現在の農家に適用できそうなものがあればどんどん紹介していけばいいのです。そのため思い切って新会社を立ち上げ、野菜工場を新たに建設・運営することにしました。

 

ただし農業を会社の事業の新たな柱にして、従来の産業機械製造と農業の二本柱の会社経営にしようと考えたわけではありません。工業視点での農業改革にどういう可能性があるかを実際にやってみながら確かめ、その仕組みを農家に提供していこうと考えたのです。

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本連載は、島原俊英氏の著書『地域循環型経営』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです。

地域循環型経営

地域循環型経営

島原 俊英

幻冬舎メディアコンサルティング

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