自由診療や物販等は消費税の課税対象だが・・・
基本的に、消費税は医療・介護・福祉サービスに対しては課せられません。そのため歯科医院の社会保険診療には消費税がかかりませんが、インプラントなどの自由診療や歯ブラシなどの物販等は課税対象となります。
ただし、消費税が免税になることもあります。原則として、2期前の課税売上(歯科診療所の場合は自費売上や雑収入)が1000万円以下であれば、その年の課税売上に対する消費税納税の義務が免除されます。
たとえば50万円のインプラントを入れた患者さんから、消費税込みで54万円を受け取りますが、2期前の課税売上が1000万円以下であった場合は、消費税分の4万円は納めなくても良いのです。
また、個人事業者から医療法人を設立した場合、2期前の課税売上は存在しないため、原則として2年間は消費税が免税になります。ただし平成24年度の税制改正により、2期前の課税売上が1000万円以下であっても、特定期間(個人事業者の場合は前年の1月1日から6月30日、法人の場合は事業年度の前事業年度開始の日以後6カ月)の課税売上高が1000万円を超えた場合、この免除はなくなります。
たとえば個人事業の歯科医院が平成27年に免税事業者になるためには、次の2つの要件をクリアしなければなりません。
●平成25年度の課税売上が1000万円以下である
●平成26年度1月1日〜6月30日まで(法人の場合は事業年度開始から6カ月間)の課税売上、または給与等支払額が1000万円以下である
この要件に当てはまれば、その年の課税売上が2000万円や5000万円になったとしても、消費税納税は免除されるため、自由診療率の高い医院には大きなメリットになります。
このため、所得税と同じく限度額をぎりぎりで超えてしまうと、損になります。とくに2017年の4月には消費税が8%から10%に引き上げられる予定のため、注意が必要です。たとえば次のようなケースでは、どちらが得になるでしょうか。
A:課税売上が985万円で免税事業者
B:課税売上が1010万円の納税事業者
Bの場合、消費税率が8%(平成27年現在)であるため、40万4000円(簡易課税の場合)を消費税として納めなければなりません。つまり売上が969万6000円まで減ってしまうのです。そして2年後も、どれだけ売上が低くても、消費税分を納めなくてはならなくなります。
「簡易課税制度」の選択で消費税が減額できる!?
自由診療等の売上が増えて納税事業者になってしまった場合は、「簡易課税」を用いた計算をして、納税額が少なくなる方法を選択しましょう。
消費税の計算方法は、自由診療や歯ブラシの販売などにより患者から「実際に預かった税額」から、材料代や技工代、リース料金など「実際に支払った税額」を差し引いて計算します。これを本則課税といいます。
しかし2期前の課税売上が5000万円以下であれば、簡易課税制度を選択することができます。簡易課税では実際に支払った税額ではなく、預かった税額に一定の割合を乗じて計算します。自由診療は第5種の「掛け率50%」が適用されます。
たとえば、社会保険診療の売上が4000万円、自由診療の売上が1000万円あり、預かった税額は50万円、材料仕入などで支払った税額が70万円とします。
●本則課税での計算:合計売上(5000万円)のうち課税売上(1000万円)が占める割合→20%
支払った消費税(70万円)×20%=14万円
納税する消費税(50万円)−14万円=36万円
●簡易課税での計算:支払った税額(50万円)×50%=25万円
納税する消費税(50万円)−25万円=25万円
以上から、このケースの場合は、節税効果が高くなる簡易課税を選択して納税すると11万円の節税になることが分かります。
消費税が上がると、医療業界はダイレクトにダメージを受けることになります。薬品や材料代には消費税がかかるため、仕入価格が上がります。しかし社会保険診療には消費税がかかりません。つまり、収入が変わらないのに、原価だけが上がってしまうのです。
こうしたリスクを考慮に入れ、今後の増税に備えるためにも、しっかりと内部留保を確保しておきましょう。