今回は、医療業の特例「概算経費」の内容と活用のポイントを紹介します。※本連載は、中央税務会計事務所の税理士・中島由雅氏と、株式会社アックスコンサルティングの代表取締役・広瀬元義氏の共著『これ1冊で安心 歯科医院経営のすべてがわかる本』(あさ出版)の中から一部を抜粋し、歯科医院の節税、税務調査対策について解説します。

無理な設備投資で「経費」を増やす必要はない!?

税金は通常、売上から経費を引いた利益に対して課せられます。そのためなるべく経費を増やそうと、院長は個人的な支出まで医院の経費に加えたり、不必要なものを購入して支出を増やそうとしたりする傾向があります。

 

しかしそんなことをしていると、医院の健康状態が分からなくなってしまいます。

 

そこで覚えておいてほしいのが、医療業の特例、概算経費です。社会保険診療報酬が5000万円以下かつ歯科医業の総収入金額が7000万円以下であれば、実際に支払った経費の代わりに、次の概算経費を適用することができます(医療法人でも可能です)。

 

【社会保険診療報酬額】

2500万円以下→社会保険診療報酬×72%

2500万円超〜3000万円以下→社会保険診療報酬×70%+50万円

3000万円超〜4000万円以下→社会保険診療報酬×62%+290万円

4000万円超〜5000万円以下→社会保険診療報酬×57%+490万円

 

たとえば、社会保険診療報酬4700万円、実際の経費が3000万円の場合、

4700万円×0.57+490万円=3169万円

実際に支払っている3000万円より、169万円も経費の額が増えました。

 

この制度を使えば、無理な設備投資をしなくても経費を増やすことができます。

 

ただし全収入に占める保険診療収入の割合や、それにかかる固有経費の額によって有利不利の変動があるため、個別に計算をしてしっかりと確認しなければなりません。実額計算で出した金額と、この概算経費率によって計算した金額を比べて、どちらか一方を選択して経費にします。

有利な税制を受けられるよう、売上や利益を調整

自由診療収入がある場合は「必要経費の総額」から「保険診療に係る固有経費」と「自由診療に係る固有経費」を差し引いた、「共通経費」を算出します。その後、共通経費を按分して計算します。具体的には、以下のようになります。

 

(自由診療収入÷総収入金額)×調整率(75%)×共通経費=按分共通経費

 

自由診療収入にかかる経費の合計=自由診療収入にのみかかる固有経費+按分共通経費この自由診療に係る経費の合計額を事業所得より引くことができます。

 

単独で歯科医院を経営している、とある先生は、概算経費を使うことで2300万円の所得を1700万円まで下げて申告することができました。

 

先生が1人の場合はあえて診療報酬を5000万円以内の範囲で収めておいて優遇制度を受けると、かなり大きな節税効果が期待できます。

 

歯科医院経営に不利な制度というものはありませんが、こうした有利な制度を受けることができる着地点をぎりぎりで外してしまうと、とてももったいないことになります。売上や利益を、ある程度コントロールすることも必要です。

 

病院や診療所では患者さんの受け入れを拒否することができませんが、歯科医院は主に予約制であり、患者のほとんどが電話で予約を取るため、臨時休診日を設ける、予約を来月にずらしてもらうなど、患者数をある程度コントロールすることが可能です。

本連載は、2015年7月1日刊行の書籍『これ1冊で安心 歯科医院経営のすべてがわかる本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

これ1冊で安心 歯科医院経営の すべてがわかる本

これ1冊で安心 歯科医院経営の すべてがわかる本

中島 由雅,広瀬 元義

あさ出版

新規開業の方法、アルバイトに高い売上を上げてもらう手立て、決算書の見方から、税務調査対策まで、歯科医院の経営を成功させるため実務に直結する具体的なアドバイスをお伝えします。 「コンビ二より激しい」といわれる歯科…

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