「贈与」は当事者同士の承諾がなければ成立しない
歯科医院の経営が安定し、それなりの利益が出るようになると、多くの院長は子どもにお金を残す準備を始めます。年間110万円以下の贈与は申告の必要がないため、子ども名義の通帳を作り、毎年110万円以下のお金を入れていくのです。
ここで注意しなければならないのは、贈与とは「贈る人」と「受け取る人」の両当事者の承諾がなければ、成立しないということです。
通帳の作成を親が行い、印鑑の管理も親が行っている。そのような状態では、客観的に見て、子どもは贈与されていることを確認できず、そのお金を自分のものとして使用することができません。つまり「子どもに対する贈与ではない」と判断されてしまいます。すると、その分のお金はすべて親の財産となり、相続税の対象とされます。相続税の調査でも、通帳はとくに気を付けておかなければなりません。
相続税の調査というと、税理士は不動産の評価や計算が適正かどうかを重視しますが、土地の調査は手間も時間もかかるため、国税調査官はあまり重視していません。
税務調査員が見ているのは、通帳です。たとえば500万円が入っている通帳を発見し、それが申告から漏れていたら、手っ取り早く「仕事」ができるからです。
税務調査員が「隠れ通帳」を見つけ出すポイント
では、税務調査員がどうやって「隠れ通帳」の存在に気づくのか。ヒントとなるものは、2つあります。
相続税の場合、院長の葬儀の際の芳名帳を確認されます。医院と取引をしていない金融機関からの参列があれば、隠れ通帳の可能性ありと判断されるのです。
もう1つは、カレンダーです。銀行がカレンダーを配るのは、それなりの預金をしている顧客だけです。医院が取引をしていない銀行のカレンダーが応接室やトイレにかかっていたら、調査員から質問されます。その場でうまくごまかせたとしても、銀行に調査が入ればすぐにバレてしまいます。
故意に所得を隠していた場合は自業自得ですが、贈与の定義を知らなかった場合、または故人の通帳の存在を知らなかった場合は、調査に入られる前に、素直に申告をしておきましょう。