ロシアとウクライナ、それぞれの獲得目標は違っている
2022年4月16日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「われわれは領土と国民については取引はしない」と述べた。ゼレンスキー大統領が言うところの獲得目標と、プーチン大統領の獲得目標は異なる。
ゼレンスキーはドネツク州やルハンスク州のみならず、クリミアからもロシアを追い出したい。そこまでの目標を達成して初めて、ウクライナの勝利があるとゼレンスキーは考える。
ロシアとウクライナの軍事力と国力を考えれば、ウクライナだけの力でこの目標を達成することはとうてい不可能だ。アメリカ軍を含むNATO軍がウクライナに直接介入しなければ、ゼレンスキーの目標は達成できない。ショルツ首相が述べる「ロシアを勝利させない」という目標は、NATO軍の助けなしには達成不可能だ。
NATO軍がウクライナ戦争に介入する事態になれば、核戦争のリスクが現実味を帯びてくる。ショルツ首相の不用意な発言は、第3次世界大戦と核戦争を誘発しかねない危険な内容なのだ。
ロシアの戦争(ロシアは「特別軍事作戦」と呼ぶが、実態は戦争だ)の目標は、2月24日の軍事侵攻開始にあたってプーチン大統領が述べた三点だ。
第一に、ロシアは「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」の住民を保護したい。ロシアの論理では、二つの「人民共和国」は独立国だ。両「人民共和国」憲法は、ドネツク州とルハンスク州の全域を自国領と定めている。
従って、ウクライナにはもはやドネツク州もルハンスク州も存在しない。ロシア軍の侵攻は、両「人民共和国」の「人民警察」(実態は軍隊)を支援して、ウクライナの武装集団を排除し、ドネツク州、ルハンスク州の全域を両「人民共和国」の実効支配下に置くことだ。
第二に、ロシアはウクライナを非軍事化したい。しかし、非軍事化の内容がどのようなものであるかは明確になっていない。ウクライナがNATOに加盟せず、中立を維持するとの方針を示せば、ウクライナが軍隊を維持することは認めるとの含みがある。
第三に、ロシアはウクライナを非ナチス化したい。具体的には、一時期、ナチス・ドイツと協力したことがある反ロシア主義、反ユダヤ主義、反ポーランド主義を掲げて実践したウクライナ民族主義者ステパン・バンデラを英雄視する勢力を、ウクライナの政治から排除することだ。その中にはゼレンスキー大統領も含まれる。
ロシアの要求は露骨な内政干渉であり、国際法に違反する。
ショルツ首相の発言の前までは、ドネツク州、ルハンスク州のうち、親ロシア派武装勢力が現時点で実効支配している領域に関してロシアの主張を認め、ウクライナが中立化すると約束をすることによって停戦の可能性があった。
NATO、EUの認識としてショルツ首相が「ロシアを勝利させない」という目標を明確にしたため、このような条件での停戦の可能性はなくなった。
一般論として、いつまでも続く戦争はない。ウクライナにおける戦争もいつかは終結する。その際には停戦がなされる。来るべき停戦を少しでも有利にするために、ロシア軍とウクライナ軍は死闘を展開する。
その過程でロシアは、当初の目標であったルハンスク州とドネツク州の全域を制圧することに留まらず、目標を拡大するだろう。
現在、ロシア軍が一部地域を支配下に置いている東部のハルキウ州、黒海に面した南部のザポリージャ州、ヘルソン州、さらには南西部のオデーサ州へと制圧地域を拡大すべく腐心している。停戦が遅れることによって、無辜の住民の犠牲が増大していく。
佐藤 優
作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授
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