開業1ヵ月目、好調なスタートに見えたが…
ラーメン屋で考えてみましょう。丼振さんの親戚、ドンブ・李さんは新規開店を目指して500万円を貯めました。さらに1000万円を銀行から借り入れ、気合十分です。
ドンブ・李さんは「高級店に負けない店にしたい」と、青森県で海岸そばの店舗を借り、内外装に徹底的にこだわることにしました。かかった費用は1000万円。厨房設備や食器を買ったら、100万円しか残りませんでした。
地鶏とウニをふんだんに使った「ウニ地鶏ラーメン」が看板メニューです。高級食材を使うため、値段は強気に1杯1500円としました。
できたラーメンは最高の味で、試食した人は誰もが絶賛します。ドンブ・李さんは自信満々の状態でオープンを迎えました。
高級路線の「ドンブ・李ラーメン」はテレビや新聞でも取り上げられ、毎日大盛況です。開業直後の1ヵ月間はとても忙しく、毎日くたくたでした。原価率は40%を超えていましたが、計画通りの400万円を売り上げ、150万円が手元に残りました。
成功を確信したドンブ・李さんはかねてから欲しかった高級車を購入し、頭金に150万円を払いました。生活も派手になって初期投資で残った100万円も使い切り、すっからかんです。
迎えた2ヵ月目。客足は大幅に減りました。店のある海岸は、夏を除いて誰も来ません。話題性もなくなり、リピーターがちらほら訪れるだけになりました。お金は一向に増えませんが、請求書の期限は迫ります。資金不足が明らかなため、ドンブ・李さんは夜間のバイトを探すことにしました。
ラーメン「1000円の壁」とは
これは極端ですが、似たような例は珍しくありません。一般的な飲食店は、開店から1ヵ月は話題性で客足を集め、2ヵ月目で大幅に落ち込みます。
そこからリピーターを増やして軌道に乗せていくわけですが、その過程で赤字になってしまったり、資金が減ってしまったりすることはよくあります。
また、ラーメンには「1000円の壁」があるといわれています。今日、ニューヨークやロンドンなど、世界中の多くの都市にラーメンが広がりました。世界の大都市では、ラーメン1杯が2000円を超えることも珍しくありませんが、日本におけるラーメンの価格帯は、一般的に700~800円程度です。
肉や野菜が大量にトッピングされるメガ盛りの二郎系や、「ミシュランガイド東京」に掲載される名店であっても、1杯1000円を超えるラーメンは少数派です。
ラーメンのように、商品価格を上げづらい環境下では、安定経営のためにターゲットとコンセプトを明確にした事業計画と資金計画を立てることが必須です。それらの計画は、実態に即して、慎重に検討しなければなりません。
そして、売上が予想を下回ったり、不測の事態が起こったりする可能性に備えて、常に余裕ある運転資金を確保することが大事です。そうすれば、急に経営が悪化しても、対策を打つための時間を稼げます。
とはいえ、計画が予想通りに進むことはまずありません。大切なのは、計画を作る過程で、来客数や原価などの変動要因を見つけ、要因が変わった場合に、資金にどう影響するかを理解することです。それがわかっっていれば、何か悪いことが起こったときに、影響を早期かつ正確に算出することができます。
そもそも間違ったスタートを切ってしまうと、修正には大きなエネルギーが必要です。誤った方向にダッシュしてしまわないように気をつけましょう。
「管理会計」はあくまで資金繰りの予測を立てるだけ
ここまでで、管理会計のよさがなんとなく伝わったでしょうか? 管理会計を使いこなせばお金がどんどん増えるようになり、人生バラ色…には残念ながらなりませ
ん。
もしそうだったら、会計の専門家である公認会計士はみんな大金持ち、もっと人気職種になっています。
簡単に儲けられる商売はありません。インターネットを見ていると、「クリックするだけで誰でも1日5万円稼げます!」といった広告が流れてきます。あれは全部ウソです。本当に儲かるならアルバイトを雇って、大量にクリックさせるでしょう。
クリックだけのアルバイト代は高くても1日数千円でしょうから、大儲けできます。それをせずに、他人にその方法を教えている時点で、偽物だと断言できます。
引っかからないようにしましょう。
私は公認会計士・税理士・司法書士・行政書士の事務所とラーメン屋を経営していますが、そのほかに、友人と設立した会社で、ワイン販売店を共同経営したり、八戸市の繁華街にビルを買って賃貸したりもしています。
どれも年商数千万円の小さなビジネスです。
メインの士業事務所は家族経営でコストもあまりかからないので心配は少ないですが、そのほかのビジネスは楽にいきません。日々悩み、苦しんでいます。
ラーメン屋は天候やコロナ感染者数によって大きく来客数が変動します。前日の半分になることもしょっちゅうです。ワイン店は一般客への販売のほか、飲食店への販売も多くの割合を占めます。なのでコロナの影響などで飲食店の来客が減ると、大ダメージを受けます。商業ビルもテナントの入れ替わりがあり、空室が続くと収益に影響します。
そのようなマイナスの影響が出るたび、利益計算を行って資金繰りの予測を行います。いまのところ資金に困ることはないものの、大きく儲かることもなく、頭が痛いです(笑)。