数学は高校の時点で挫折
私の両親は大学の数学科で出会いました。父は中学の数学教師、母は数学塾を自宅で開いていました。居間の本棚は、難しそうな数学理論の本がたくさんのスペースを占めていました。もっとも、家族がその本を読んでいるのを見たことはありません。
そんな環境で育った私は当然のように数学好き…にはなりませんでした。両親との仲は良く、わかりやすい反抗期もありませんでした。それでも、中学生くらいになると、なんとなく親の存在を否定したくなったのでしょうか、数学が一番熱の入らない教科になりました。
高校ではさらに勉強しなくなりました。通っていた高校では、一部男子の間に「雪が降っていてもコートは着ない」「宿題はやらないほうがかっこいい」など、謎の価値観がまん延していました。気がつくと数学の授業内容がさっぱりわからなくなり、テストで200点満点中の6点を取ったこともあります。
なんとか入試のときだけ勉強し、大学は経済学部に入ったものの、格闘技と麻雀に熱中。さっぱり勉強せずに卒業してしまいました。もっと力を入れて学んでおけばよかったと後悔しています。
小学校の算数ができれば「会計」は十分!
かつての私のように、数学に苦手意識がある人は多いでしょう。方程式、連立方程式、一次関数…これは中学校で学ぶ内容です。虚数、ベクトル、サイン・コサイン・タンジェント…この辺になると、冷や汗と焦(あせ)りを思い出す人もいるのではないでしょうか? これらは高校数学の範囲です。
安心してください。会計においてこれらの知識はまったく必要ありません。使うのは足し算、引き算、かけ算、割り算だけ。数学の知識は、小学校の範囲までで十分です。
そもそも、会計は用語がとっつきにくいのか、なんだか難しいと誤解されているような気がします。たしかに突き詰めるととても難しいものですが、小規模な商売や日常生活で使う範囲では、とても簡単です。「お金をどう使ったかを記録し、記録したデータを分析する手続き」くらいで理解しておけば大丈夫です。
「会計」には2種類ある
ちょっとだけ難しい話をさせてください。一口に会計といっても、「財務会計(ざいむかいけい)」と「管理会計(かんりかいけい)」があります。
財務会計は、外部の利害関係者(債権者や税務署など)に、財務状況を報告するための会計です。個人事業主でいえば、確定申告がこれにあたります。
管理会計は、企業の内部で分析したデータを意思決定や業績評価に役立てることを目的にした会計です。この本で主に扱うのは、こちらになります。
財務会計は税金計算などに用いるので、統一ルールが定められています。
一方で、管理会計は内部のみでの使用が前提で、経営に役立てることを目的にしています。基本的な考え方以外は、使いやすいようにアレンジしても問題ありません。
管理会計の基本的な考え方について、ラーメン屋で考えてみましょう。原価率や、損をしない売上について分析してみます。
1ヵ月の営業日は25日、トータルで100万円の売上がありました。来客数は合計で1000人、客単価は1000円だとします。一方で1ヵ月のトータルの仕入額は30万円でした。人件費は15万円、家賃や水道光熱費は20万円で、35万円が手元に残りました。
飲食店を安定的に経営するためには、食材の原価は30%程度に抑えなければならないといわれています。原価率を算出する計算式は、次のようになります。
原価率=使った食材の仕入額÷売上
これだけです。簡単ですね。この店の場合は、「30万円÷100万円」で、原価率は目安の30%になります。