少ない技術本や見よう見まねで学んだあの頃
子どものころから、『キン肉マン』や『北斗の拳』が大好きです。優しく強い男になりたい、と漠然と考えていたところ、格闘技ブームが到来。
20歳の私はさっそく近くの道場に入門しました。
当時は総合格闘技のPRIDEが大ブームで、ブラジルからやってきた「グレイシー柔術」が日本の強豪選手と熱い闘いを繰り広げていました。グレイシー柔術は、ブラジルに移民した日本人柔道家・前田光世が伝えた技術を、グレイシー一族が中心となって伝承してきたものです。技の多くは腕をきめる関節技や、相手を気絶させる絞め技などの寝技です。一族は秘伝の技術でアメリカのスポーツエリートや日本のプロレスラーを次々に仕留め、世界を熱狂させました。
道場では、寝技の研究が流行っていました。当時はスマホもなく、YouTubeも普及していません。仲間と数少ない技術本やビデオを見ながら、あーでもない、こーでもない、と技をかけあう日々を過ごしていました。
そのときに、先生から言われた「お前らは高速道路を走るようなものだから、うらやましいよ」という言葉が印象に残っています。先生が現役だったころは本やビデオもなく、ひとつひとつ自分たちで技を作りながら練習していたそうです。
インターネットの普及で学習の効率が劇的に向上
それからおよそ20年。現代はどうでしょう。YouTubeなどの動画教材は当たり前になり、インターネットでたいていのことは調べられます。世界のどこでも通信できる環境も整い、お金を払えば自宅から有名選手のレッスンを受けることができます。改めてすごい時代になったものです。
私たちの時代が高速道路なら、現代はジェット機以上のスピードです。試合で新しい技が出ると、動画がリアルタイムで共有されます。難しい技であっても、繰り返し見ることができるので、なんとなく真似できるようになります。もちろん、コツはわからないので見よう見真似のなんちゃって技になりますが、画像も見られなかったころと比べると、とてつもない差です。
昔の格闘漫画では、山で修行して熊と戦うことが定番でした。死を覚悟した修行の末に新しい技をひらめき、それで相手を倒します。
しかし、いまの世の中で実際に山にこもって試合に臨んだとしても、都合よく新技で勝つことはありません。高度情報化社会に、1人で考えることは、飛行機を拒否して歩くようなものです。
廃業の原因は赤字ではない
これはビジネスでも同じで、昔に比べてノウハウやセオリーは巷にあふれています。
「ラーメン開業ポイント」といったキーワードで検索すると、さまざまなページがヒットします。書籍もたくさん見つかります。
そんな時代でも、「山にこもる修行」で商売を始める人は後を絶ちません。新しくオープンした店を見て、「すぐにつぶれそう」と感じることがあると思います。外装がとても入りにくいものだったり、メニューが場所と合っていなかったり、原因はさまざまですが、そのような勘は結構な確率で当たります。
明らかに失敗しそうな商売をなぜ始めるのでしょう? それは、単に事前準備が足りないからです。そもそもの計画に無理があり、スタート時にすでに負けている場合があります。計画は作ればいいわけではありません。現実に沿っていなければ意味がないのです。
近年は、国を挙げて起業者を増やす流れができていて、開業支援策が充実しています。融資を受けるハードルも低いです。事業計画が数字上はしっかりできており、事業を始める人の信用情報に問題がなければ、創業融資は受けやすくなっています。
一方で、創業後のフォローアップ体制はさほど充実していません。
創業直後から十分に顧客を集められる商売は多くありません。小規模事業では、最初の1年間は資金流出が続くことが多いです。廃業の原因は、赤字の累積ではなく、資金が尽きることです。お金がなければ材料が買えず、商売を続けられなくなるからです。