2つのラーメン屋、原因に気づくまでの時間に大きな差
この2店で大きく異なるのは、「問題に対処できるまでの時間」です。
どんぶりラーメンはなぜお金が減ったかわかりません。「どうしてお金が残らないんだろう?」と頭を悩ませるところがスタートです。原因に気づくまでに、状況はより悪くなってしまいます。既存のメニューを見直すなど、誤った対策を取ってしまうこともあり得ます。
一方、しっかりラーメンでは、売上と経費のデータを日常的に見ますので、問題が起こったときはすぐに気づくことができます。原因もはっきりわかるため、対策も取りやすいのです。
これが「会計」の力です。この本を読んで基礎を学び、皆さんの店に生かしていただければ嬉しいです。
普遍的に儲かりやすい商売は存在しない
ここまで、「儲かりやすい商売はあるのか?」という問いの答えを書いていませんでした。わざとです。会計の大切さを知ってほしかったからです。
結論をいうと、一口に儲かりやすい商売は存在しません。時期や場所、オーナーの資質に左右される部分が大きいからです。
もちろん、時代に合って成功しやすい商売、失敗しやすい商売はあります。それを見つけられるかは運が大きく絡みます。ここ20年で市場に出た革新的な製品のうち、スマートフォンは大流行しましたが、セグウェイは生産終了になりました。
技術革新が進んだり、状況が変わったりすると、産業自体が大きく傾くこともあります。例を挙げてみましょう。
大正時代に入って男性がスーツを着ることが一般層にも浸透し、仕立て屋さんとして起業する人が続々と現れました。職人の手によって、それぞれの体型に合わせたスーツが一着一着、丁寧に仕立てられました。
ところが、第二次世界大戦が終わり、高度経済成長期に入ると、状況が一変します。あらゆる産業が機械化し、マニュアルによる大量生産の時代に入り、既製品のスーツが量販店にあふれるようになりました。個人店は価格で太刀打ちできなくなり、徐々に廃業していきます。
やがて、スーツは既製品が当たり前で、オーダーメードは愛好者のための高級品になりました。現代では、仕立て屋さんで独立するという選択肢は、一般的とはいえないものになりました。
士業としての私の仕事も新しい波にさらされています。
「AIに代替される仕事」と題された記事を読むと、たいてい「税務申告」が入っています。私の本業の1つである税理士が仕事としてなくなってしまうのは正直、とても困ります。予想が当たるとは限らないですが、そのような未来が到来する可能性は十分あるでしょう。
時代の変化に伴って、人の好みや周囲の環境は次々に変わっていきます。ここ20年間のラーメンで見てみても、魚介系と動物系のWスープ、メガ盛りの二郎系、濃厚魚介つけ麺、鶏白パイ湯タンなど、次々に流行が生まれ、移り変わっていきます。行列店が生まれる陰で、かつての行列店が閉店していきます。
タピオカが爆発的に流行し、あっという間にブームが去ったのは記憶に新しいです。少しさかのぼると、白いたい焼きでも同じようなことがありました。
かつてダーウィンは、「生き残るのは強い者ではなく、変化に対応できる者である」と唱えました。これは、ビジネスにおいてもまったく同じです。儲けるためのシンプルなルールは、環境変化に臨機応変に対応することです。