「複式簿記」は600年形を変えていない発明だった
有史以来、世界の商売人は入出金の記録に悩まされていました。対策として生み出されたのが「複式簿記」です。起源は、中世イタリアや古代ローマなど、諸説あります。
複式簿記は、簡単にいえば入出金や取引の内容を記録し、後から確認できるようにまとめた技術です。これは人類の発明の1つで、遅くともイタリアで記録がある600年前から現代まで、大きく形を変えることなく使われています。複式簿記を含む商売に関係した取引を記録することなどを総称して「会計」といいます。
一口に会計といっても、いくつか種類があるのですが、難しいことを考える必要はありません。「カイケイを勉強すれば商売に役立つ」程度の理解で大丈夫です。
なんかめんどくさそう…と感じたかもしれません。どうしても、法律や税金はパッとみて言葉が難しいですよね。貸借対照表(タイシャクタイショウヒョウ)、先入先出法(サキイレサキダシホウ)、移動平均法(イドウヘイキンホウ)など、大学生の私が見たらパニックになりそうです。
安心してください。個人や小規模企業に関する会計はとっても簡単です。具体的にいえば、足し算、引き算、かけ算、割り算しか使いません。1日で基本はマスターでき、それで十分実務に使えます。そして、会計の概念を身につけられれば、どんぶり勘定から抜け出すことができるのです。
どんぶり勘定としっかり勘定の決定的な差
■どんぶり勘定のラーメン屋の例
それでは、会計が商売にどのように役立つか、具体例で考えてみましょう。
「管理業務は時間のムダ。そんなことより理想の味を追求する」という店主・丼振(どんぶり)さんが経営する「どんぶりラーメン」。
こんなポリシーの店があったとします。店はランチタイムから深夜まで営業。新メニューの牡蠣で出汁を取り、大ぶりな和牛チャーシューをのせた「和牛牡蠣ラーメン」も大好評です。
毎日行列の対応に追われ、売上管理や領収書の整理をする時間はありません。販売記録は残るものの、支払いはレジのお金でするため、現金が合わないことはしょっちゅうです。たくさんお客さんが来た日は、閉店後、レジからお金をわしづかみにして街に繰り出します。
実は、こういう店はそれなりの割合で存在します。
どんぶりラーメンにとって、「儲け」とはどの金額を指すでしょうか? このような管理をしている場合、正しい利益を算出することは無理です。時間が経つと領収書がなくなったり、レジから取った現金を思い出せなくなったりするはずです。前月と資金の残高を比べて、儲かったかを判断するしかありません。
連日の行列にもかかわらず、毎月お金はあまり増えません。どうしてだろう…丼振さんは悩みました。
実は、新メニューの原価率が高くなっていて、経営を圧迫していたのです。さらに、丼振さんの休憩時間に営業を任せていたスタッフが、レジから少しずつお金を抜いていたのです。怖い話ですが、飲食店ではよくあります。
■しっかり会計のラーメン屋の例
それでは、もう1店の例を説明しましょう。
「経営を長く続けるために会計と資金管理をしっかり行う」という店主・鹿理(しかり)さんが経営する「しっかりラーメン」。
こちらの店で同じことが起こったらどうなるでしょう。新メニューの材料の牡蠣と和牛は、仕入先から納品されるたびに、会計ソフトに記録します。売上も毎日記録し、レジの現金がずれることも当然ありません。
現代はソフトを使って会計を行うことが当たり前ですから、毎日記録をつけていれば、データで数値管理を行うことができます。
店主が仕入データを見ていると、牡蠣と和牛が想定より高いことに気づきました。
原価率をはじいてみると、40%を超え、経営を圧迫しています。ラーメン屋は水道代やガス代、店舗賃料などが高いため、原価率は30%程度に抑えることが望ましいとされています。
店主はさっそく、チャーシューを少しだけ小さくし、牡蠣のグレードを落とすことで、原価率を低くする対策を行いました。お客さんの満足度は下がってしまいますが、安定的に店を続けるために仕方ありません。もちろん、スタッフからお金を盗まれることもありませんので、今月も想定通りの利益を確保できました。