(写真はイメージです/PIXTA)

ロシアによるウクライナ侵攻に対し、西側諸国は制裁を拡大していますが、果たしてどれほどの効果があるのでしょうか。ニッセイ基礎研究所、高山武士氏の分析です。

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    1―経済・金融制裁の影響

    ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、半年以上が経過した。

     

    西側諸国は軍事侵攻を受けて協調してロシアに迅速かつ厳しい経済・金融制裁を課してきた。具体的には経済(貿易)面では半導体などの戦略物資のロシアへの輸出停止やロシア産資源の輸入停止、金融面ではロシアの個人・企業・銀行(中銀含む)の資産凍結や一部銀行の国際決済網からの排除などが挙げられる。

     

    制裁は、ロシアの物資・戦費調達を困難にし、経済・金融面から戦争を続けることを難しくさせることを目的としている。ロシアにとっては西側諸国との貿易縮小や輸入品の価格上昇を通じて実体経済にマイナスの影響が及ぶことが想定される。また、制裁ではないが外資系企業がロシアでの事業停止やロシアから撤退することは生産力の低下につながる可能性がある。

     

    一方で戦争開始から天然ガス価格などの価格が高騰している。ロシア側に立てば主要輸出品目の価格上昇は、交易条件の改善を通じて実体経済にプラスの恩恵を得ることができる。

     

    戦争が長期化し、西側諸国の制裁やロシア側の対抗措置が強化されるなか、戦争開始後のロシアの実体経済に関するデータも明らかになってきた。ここでは、主にロシア政府や中銀が公開しているデータをもとに、戦争開始後のロシア経済の現状を確認していきたい。

     

    ただし、そもそもロシアの公的統計の信憑性に疑問を呈する向きがある点は留意事項として補足しておきたい。

     

    さて、次節で実際の統計データを確認していくが、その前に、戦争や制裁によって想定される影響を概観しておくと、次のようになるだろう。

     

    ロシアはエネルギーの輸出国としての存在感が大きく、資源輸出が経済成長の原動力になっている。ロシアはエネルギーを武器に西側諸国(特にエネルギーをロシアに依存してきたEU)に揺さぶりをかけることができるが、エネルギー輸出の減少はロシアの成長率低迷に直結する。

     

    他方、輸入に関する制裁の影響はより複雑と言える。ロシアにとって経済制裁により輸入が困難になったモノやサービスについて、質は悪化したとしても国内品への代替が進み国内需要が増加すると、消費者の満足度は低下するかもしれないが、ロシアの国内生産は増加し、GDPを押し上げる可能性がある。一方で、輸入品の価格上昇や生産力の低下により生産コストが増加して、物価が上昇すると購買力が低下して国内生産が減少する可能性もある。

     

    中長期的には輸入(モノ)の減少だけでなく外資系企業の撤退や、戦争や制裁によって将来的にヒトやカネ、技術が集まりにくくなることによる影響が増すとみられる。

     

    このように経済・金融制裁の影響は様々なものが想定されるが、必ずしも足もとのマクロ経済指標の悪化に直結しない可能性がある点に留意が必要だろう。

     

    加えて、ロシアも西側諸国の経済・金融制裁への対抗措置として、主力輸出品目(エネルギーや食料など)を武器に揺さぶりをかけつつ、西側諸国の「脱ロシア」による影響を軽減するために代替貿易先(輸出側では代替市場、輸入側では調達源)の確保や、国内での生産力強化による経済の下支えを図っている。

    次ページ2―ウクライナ侵攻後の経済状況

    ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年10月6日に公開したレポートを転載したものです。

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