東京で経験を積み、地元で起業
独立後は、前職で知り合った人の応援もあって、仕事には恵まれていたというTさんが、帰郷の準備として取り組んだことが2つあります。
まず極力対面での打ち合わせを減らし、インターネットや電話を活用するということでした。
当時はコロナ禍が広がる前でリモートでの打ち合わせは一般的ではありません。しかも、クライアントもTさんも同じ都内です。それでもリモートを活用することを提案し、仮に将来、東京と青森に分かれても、抵抗なく打ち合わせができるようにしていきました。
もう一つTさんが試みたのは、青森県が実施していたIT系人材のUターン促進のための「青森ITワーク調査モニターツアー」への参加です。
このツアーは一週間にわたって青森県に滞在し、県が貸し出すワーキングスペースを使って実際にリモートワークを行い、順調に進むかどうか体験してみるというものです。
Tさんは東京で進めている仕事を持ち込んで業務環境を確認し、これならやっていけるという確信をもちました。生活はもともと地元の人ですから勝手知ったるもので、最初からなんの問題もありません。
高校を出てからの東京生活が10年を経過し、28歳になった年にTさんは同郷の出身でやはり東京に出て働いていた女性と結婚して2人で帰郷、その機会に十和田市で会社を立ち上げました。
まず、東京時代の仕事をそのまま十和田市で継続する形でWeb制作会社としてスタートします。また、地元でもホームページの制作などを中心に仕事を広げていきました。
TさんはUターンして起業した若手経営者として、市の広報誌などで紹介されることも多く、それが誕生まもない会社の存在を地元に告知することにもなりました。また大都市と異なり、街の規模が小さいだけ横のつながりは強く一つの会社で仕事の関係ができると、口コミですぐに横に広がっていったそうです。
しかもTさんはもともと地元に友達が多いので、会社の評判は瞬く間に広まりました。こういうところは地方のいいところだと思います。
そのあとはホームページの制作以外にもITでこういうことはできないかと、業務効率化に関するシステムの導入についての相談もあり、地元の希少なIT企業として少しずつ仕事を増やしていきました。予想したとおり、ITに関連することについてはホームページ制作にとどまらずいろいろな相談が持ちかけられたそうです。
最初は1人でスタートしたTさんの会社も、現在は社員5人に拡大しています。全員が地元出身者です。また地元の中学や高校に呼ばれてIT企業の仕事を紹介する講演などもしているそうです。自社への採用という視点ではなく、広く地元でIT人材育成に貢献できればと考えて、積極的に協力しているそうです。