「なんで平屋?」…ハイカラでない家に残念な思いも
借家から移り住んだときの感動はいまでもよく憶えています。当時は両親と私、それに10歳離れた兄と父方の祖母の5人暮らしでしたが、広くてピカピカで、真新しい檜の香りのする新居に、「これが新しい我が家か!」とみんな大興奮でした。
もちろん私も嬉しかったのですが、正直に白状すれば、「なんでこんなにハイカラじゃないんだろう……」と少し残念な気持ちもありました。仲よしの友だちの家が鉄筋コンクリート造りで、「ああいう都会風の家がいいな」と憧れていたのです。
だから純和風の木造の日本家屋というのが、どうにも田舎っぽく思えてしまって。それに2階建てが普通でしたから、「なんで平屋なの?」という思いもありました。
いまから思えば、父があえて平屋にしたのは、家族が別々の部屋で過ごしていても、互いの気配を感じられるような住空間にしたかったからなのかもしれません。
2階建てだと、家族の一体感みたいなものは、動線的にどうしても多少薄れる面がありますから。
基本的に純和風の家でしたが、応接間だけは洋間で、なぜか暖炉までありました。知る限り、1度も暖炉として使ったことはないので、「いったい何のために?」といまでも謎(笑)。池に鯉がいるように、洋間には暖炉だろ、みたいな単純な話だったのかもしれません。
それはさておき、応接間にはピアノがありました。習っていた私のために父が買ってくれたものです。最初からピアノを置くつもりで洋間も用意したのだと思います。
譜面は読めませんでしたけど、父も見よう見まねで「星の流れに」という曲をよく弾き語りしていました。明治生まれの祖母もポロンポロンとやっていました。音楽好きの家族でした。