2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。中国は「中立」の立場を強調し、対外的に曖昧な態度を示し続けているが、その一方、国交樹立30年を迎え、安全保障の供与を約束するウクライナとも微妙な関係を維持し続けている。ロシアのみならずウクライナともバランスをとろうとする中国だが、これらの関係は、一帯一路や中欧班列にどう影響するか。状況を探る。

一帯一路への影響

中国と欧州を結ぶBRIのルートはロシア、中央アジア、そしてウクライナに大きく依存している。しかしロシアとウクライナの領土内の安全保障上の問題に加え、欧米の対ロ制裁も加わり、多くの欧州諸国や一部中国企業も含め各国企業がロシアとの関係を避けるようになっており、中国当局としてはBRIの重心をより南のルートに移す必要が生じている。

 

この関連で、地政学的観点からイランの役割が強まるとの見方がある(ジュネーブ安全保障センター研究員)※2

 

※2 「Russian-Ukraine War: Implications for Asian Geoeconomics」The Diplomat July 4 2022

 

すなわち、

 

①南のルートは地理的にイランが中心になる。

 

②中国はBRIの推進で、中央アジアとインドなど南アジアの相互補完性、投資の相乗効果を重視しているが、現状、地理的に両地域を連結するうえで最も有効なアフガニスタンの活用が安全保障上難しいため、代わりにイラン東部が重視され始めている。

 

③中央アジアや南アジアの諸国もイラン経由で欧州市場にアクセスし始めており、すでにイランとこれら諸国との貿易、商談が急増している。

 

④以上から、ウクライナ問題を機にイランが貿易ハブになる潜在的可能性が出てきた。

 

⑤ただし、その実現は米国の対イラン制裁の行方に左右されることになる。

 

中国にとってBRIの投資重点国である中東欧諸国はロシアに対する警戒感が強く、これらの国はウクライナ問題に対する中国の曖昧な態度に疑心暗鬼になっていると言われている。

 

エストニアとラトビアは2022年8月、BRIの下での貿易投資促進を目的として、中国と中東欧16か国が2012年に設立した「16+1」の枠組み(その後2019年にギリシャが参加し「17+1」)からの離脱を表明(リトアニアはすでに2021年に離脱)。これも直接的にはペロシ米下院議長の台湾訪問後に中国が台湾海峡でおこなった軍事威嚇が引き金になっているようだが、すでにロシアのウクライナ侵攻直前の2022年2月、プーチン氏が訪中した際、習氏が「中ロ協力に天井はない」と発言したことで、中国に対する不信感を募らせていたことが背景にあると言われている※3

 

※3 「What next for China’s 16+1 group after Baltic exits over Russia and Taiwan?」South China Morning Post(香港英字紙)August 20 2022

中欧班列への影響

BRI推進で重要な役割を担う中欧班列への影響はどうか。

 

主要ルートはロシア、白ロシア、ポーランド経由でドイツに至るもので、白ロシアのミンスクとポーランドのワルシャワが最重要中継地点。ウクライナ経由ルートの比重は小さく迂回可能とみられている。

 

このため、中国当局はこのところ、中欧班列の運行が全体として順調であることを盛んに強調している(たとえば、2022年1~10月の運行本数が1.4万列を超えたなど。10月27日外交部記者会見)。しかし実際には、中欧班列の使用を控えリスクを回避する企業が増加しており、ロシアや白ロシアを避け、カスピ海や黒海を経由する南ルート、あるいはそれでは輸送量に限界があるので、2020年以来パンデミックで回避されていた海路を選択する動きがある。

 

それ以上に重要な点は、これまではロシアや白ロシアを経由するルートで貨物が欧州に運ばれていたが、ロシアのウクライナ侵攻後は、大半の貨物がモスクワ止まりになっており、貨物出発地で貨物量を計上している中国側発表数値はこうした変化を反映していないとの指摘があることだ※4

 

※4 「中欧班列破万? 党媒泄中俄合作实情(中欧班列が1万列を突破? 党メディアが中ロ協力の実情をリーク)」新唐人(海外華字誌)2022年8月30日

 

次回の記事は、「中国とロシア双方の実務的関係」について解説する。

 

 

金森 俊樹

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