中国とロシア、ウクライナ侵攻中も継続する〈相互利用〉の思惑

2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。中立的立場を強調する中国だが、中国・ロシア間には、過去の国境紛争といった競合的関係があるものの、政治的・経済的側面においては、互いに相手を利用するというメリットがある。世界各国の目を意識しつつ、中・ロのトップ同士が神経をすり減らすやり取りを繰り広げている。中国の銀行・民間企業の動きはさらに巧妙だ。実情を見ていく。

ロシア経済「対中貿易の重要性」が増しているのは明白

ロシア経済にとって、その規模、伸びからみて、対中貿易の重要性が増していることは疑いない。2021年貿易額1470億ドル、36%増、ロシア貿易全体の18%を占める。2022年北京オリンピック時のプーチン氏訪中の際には、1170億ドルの原油、天然ガスを中国が購入することで署名し、2025年2500億ドルまで増やすことで合意した。ただ、中国は国としてはロシアの最大貿易相手だが、EUを1つとみると、ロシアの対EU貿易は対中の2倍で、なお経済面で欧州がロシアにとって最も重要な地域であることに変わりはない。

 

2014年のクリミア侵攻以降、ロシアの貿易面での中国依存は高まっているが、FDIや融資など貿易以外の経済面での中国の比重は低く、やはりEUの比重が引き続き高い。ロシア中央銀行統計では、ロシアの2019年対外FDI残高はキプロス1800億ドル、オランダ521億ドル、バーミューダ378億ドル、ルクセンブルグ366億ドル、英364億ドル、アイルランド304億ドル、仏223億ドル、ドイツ211億ドル、スイス189億ドルなどで、上記中国側統計同様、中国の数値は微小のため不詳だ。

 

中国側からみても主要貿易先はアセアン、欧州、米国で、対ロ貿易シェアは非常に小さい。上述の通り、FDI先としてもロシアの比重はわずかで、証券投資はほぼ皆無に近い。データからみる限り、中ロは経済関係において互いに相手が不可欠というわけではない。

 

ただし、両国の貿易構造は片務的・補完的で(もっぱら中国はロシアからエネルギーを輸入する一方、ロシアは中国から消費財など各種完成品を輸入)、両者の経済を一体化させる効果を有している。特に、中国にとってはエネルギーの安定供給を確保する観点からロシアは必須である一方、欧米の制裁に直面するロシアにとって、エネルギーの代替輸出先として中国の重要性が増している。

 

(注)ドルベース金額で算出。EU数値に脱退した英国を加えると2021年15.5%、22年1~10月15.2%。ウクライナの2022年数値は1~9月。 (出所)中国海関統計
[図表1]中国の国・地域別貿易シェア(%) (注)ドルベース金額で算出。EU数値に脱退した英国を加えると2021年15.5%、22年1~10月15.2%。ウクライナの2022年数値は1~9月。
(出所)中国海関統計

外交上は盟友の中ロも、地理的には「競合関係」

政治外交面では、両国は各種国連決議で歩調を合わせることが多く、外交上の「盟友」とみられているが、両国間には周知の通り、旧ソ連解体から2005年に至るまでの約14年にわたる国境紛争の歴史があり、地理的に競合する関係にある。

 

中国が1996年に上海協力機構(SCO)を立ち上げ、以来これを主導し、またBRI推進で中央アジア諸国との関係を強化してきた背景には、特に同地域からのエネルギー供給確保を通じ、エネルギー面でロシアへの過度の依存を避ける思惑があった。

 

他方、ロシア側にも中央アジアへの影響力を拡大させ、またSCOを主導する中国に対して強い警戒感があり、先進国と途上国のような片務的な貿易構造に対し、「ロシアは中国の属国か」といった反発の声まで聞かれてきた。

 

ソ連解体後、中ロ関係には常に3つの「翳り(陰影)」がみられてきたとする指摘がある※1。すなわち、①中国が常にロシアの軍事技術を盗んできたとの疑念がロシア側にある、②ロシア極東地域への中国進出が活発で、ロシア内で、極東は早晩、中国の経済植民地になるとの声がある、③中国の一帯一路(BRI)は、ロシアの目には旧ソ連地域への中国の蚕食と写っている。

 

※1 「“二十大”习近平连任之际的内外处境(第20回党大会で習近平が続投する際の内外の困難な状況)」自由亜州電台(海外華字誌)評論2022年9月13日

 

これらを踏まえると、両国が共通の理念の下、互いに相手を信用して長期的で安定的な信頼関係を築くとは考え難い。ウクライナ問題を契機に、とりあえず中ロは接近を強めているが、イデオロギー面で同盟関係にあるというより、欧米、特に米国を念頭に、その時々の情勢に応じて、互いに相手をどう利用すれば自国の利益を最大化できるかを常に考えながら行動する実務的なパートナーとしての側面が強い※2

 

※2 「ウクライナ情勢と中国」金森俊樹 外国為替貿易研究会「国際金融」2014年6月

中国がロシア経済を支援するインセンティブ

このような中ロの互いに自らの利益を考えた実務的関係は、ロシアのウクライナ侵攻後もすでに以下のように現れている。ロシアは中国が一緒に戦争してくれることは全く期待していないが、対欧州エネルギー貿易の減少を一定程度中国が代替吸収して影響を軽減し、ロシア経済が制裁に長く耐えられるよう、経済面での支援を期待していると思われる。

 

仮にロシア経済が崩壊するようなことになると、米国が対中戦略に専念する余裕ができることになるため、中国としてもロシア経済を支援しその崩壊を防ぐインセンティブがある。

 

習近平氏は一度もプーチン氏、あるいはその外交政策を支持するとまでは明言しておらず、その考え方やイデオロギーがプーチン氏と同じなのか否かも定かでない。同時に、ウクライナを支持するとも明言しておらず、全体としてはロシア寄りの姿勢をみせているという状況である。

 

この背景として第一に、対米関係を念頭にできるだけ米国に対抗する国を作っておきたいという意味で、プーチン氏が失敗することは望んでいないということが指摘できる。第二に、中国としてはロシアが自ら仕掛けた侵略戦争に勝っても負けても損はしないという読みがある。

 

仮にロシアが勝てば、ウクライナ問題で対欧米非難を展開してきた中国として当然メリットはある一方、ロシアが負けても、現状中国がロシアに軍事支援をしている、あるいは何かロシアの侵攻で具体的な利益を得ているという明確な証拠はなく、国際社会から中国が何らかのマイナスの影響を受けることは考え難いうえ、欧米と一緒になってロシアを非難しなかったという点で、ロシアに対する「貸し」が残る。

 

対米関係はいずれすでに十分悪化しており、これ以上悪くはならない(米国ハドソン研究所研究員)※3。他方、プーチン氏は習氏ひいては中国全体を味方につけているようにみせ、欧米との関係でそれを盾にして侵攻しているという構図である。このように、中国、ロシア双方が互いを利用している関係にある。

 

※3 「习普彼此・打气,他为何对普京“不离不弃”(習とプーチンは互いに励まし合っている。習はなぜプーチンに対し“離れず見捨てず”か)」万維読者網中国瞭望 2022年6月18日

 

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    1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。2015〜21年、香港の日本ウェルス(NWB)独立取締役。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。

    著者紹介

    連載ウクライナ情勢と中国~中ロ関係と国際社会に与える影響~

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