中国「ウクライナの主権、独立、領土保全を尊重する」
中国とウクライナは2022年に国交樹立30周年を迎えた。中国は一貫して「ウクライナの主権、独立、領土保全を尊重する」としており、2013年に締結した友好協力条約で中国がウクライナに安全保障の供与を約束している。
関係強化を象徴する動きとして、たとえば2021年7月、初の電話首脳会談がおこなわれ、また2007年以降、ウクライナに8つの孔子学院が開校されるなど、両国が接近する動きがみられてきた。
経済面では2017年に協力協定が締結され、ウクライナは習近平政権の看板政策である一帯一路(BRI)の重要メンバーに位置付けられ、さらに、貿易、投資、物流、インフラ面での協力を強化するため、2021年6月にインフラ建設協力協定も締結された。
ウクライナはEUとも同様の協力協定を締結しているため、中国―欧州間の鉄道輸送、鉄道―港間の輸送で重要な役割を果たしている。2021年9月、中欧班列(中国―BRI沿線諸国―欧州を結ぶ国際貨物列車。2022年7月末時点、運行路線82、24か国200都市を連結。“班列”は元来中国で朝廷や官僚の序列を指す言葉)のルートの1つとして、ウクライナを経由するルートが開通し、ウクライナ内での双方向運行、ウクライナの貨物を対外輸送する能力の増強に寄与している。
中国企業はウクライナへのFDIを活発化
中国企業は2018年から、農業、インフラ、エネルギー、通信などの分野でウクライナへのFDIを活発化させている(2017年475万ドル、18年2745万ドル、19年5332万ドル、20年2106万ドル、20年末残高1.9億ドル)。
代表的な例としては、ウクライナ南部のニコラエフ港建設(2016年、中粮集団)、首都キーウの地下鉄建設協議署名(2017年、中国太平洋建設集団)、同地下鉄情報ネットワーク整備(2019年、華為ファーウェイ)、黒海沿岸チェルノモルスク港水上運送工事(2019年、中粮集団)、ウクライナの情報ネットワーク防御・安全システムプロジェクト落札(2020年、華為)、西南部黒海沿岸都市ユージュニ大型風力発電所建設(2021年、中国龍源電力集団)などがある。
ただ投資プロジェクトがすべて順調というわけではない。たとえば2021年、おそらく強制的技術移転が中国を利することに懸念を持つ米国の反対で、北京天驕航空産業投資公司によるウクライナの航空機エンジン製造会社買収が頓挫している。
貿易面では、ウクライナは中国から機械設備や消費財を輸入する一方、中国はウクライナから主として鉄鉱石、とうもろこしや大麦など農産品を輸入している。その他、航空機エンジンやミサイル部品などの重要軍需物資を輸入しているもようで、そのなかには、かつて中国が旧ソ連から購入した兵器の維持補修に必要な部品も含まれているという。
ロシアのウクライナ侵攻直後、一部海外メディアがウクライナ政府はロシアに友好的な中国に反発して、中国向け航空機エンジンと同部品(中国はこれを軍用機、民生用大型航空機に使用)の輸出禁止を決定したと報じ、それが中国内でも伝えられ注目された。しかしその後確認できる証拠がないとして、中国内で反中勢力のデマだとする声が挙がった。
貿易額は国交樹立時2.3億ドルだったが、2021年193億ドルまで増加し、パンデミック下でも拡大してきた。ただ、ウクライナにとって中国は最大の貿易相手国だが、中国にとってウクライナの貿易シェアは2021年0.2%、ロシアの2.4%と比べてもはるかに小さい。
ウクライナも、現状では対中非難せず
ウクライナと中国の政治関係は微妙だ。ロシアのウクライナ侵攻後、習氏は米国、EU、ロシア首脳とは個別に会談したが、ウクライナとは外相レベルのみ(8月)。それでもウクライナはこれまでのところ、対中非難は展開していない。
外相会談でウクライナは「中国は平和、停戦を保障する鍵となる国。この面での影響力行使を続けることを希望する」とし、新華社もこの発言を報道した。ウクライナはまた「多くの国が中国は裏でロシアを支援しているというが、実際は中立を維持していると理解している」と発言している(ウクライナ大統領府弁公室主任)。中国はすでにウクライナに対し、戦争終結後の大規模援助を約束しているとの情報もある※1。
※1 「战争阴影下中国与乌克兰的微妙的关系(戦争陰影下での中国とウクライナの微妙な関係)」在線報道(海外華字誌) 2022年4月17日
中国側は2022年第一四半期までウクライナとの貿易が正常に伸びていることを強調していたが、3月からウクライナ経由の中欧班列に運休が出始め、1~9月貿易額は62.8億ドル、▼55.9%、輸出27.3億ドル、▼58.8%、輸入35.5億ドル、▼53.4%と激減している。