※画像はイメージです/PIXTA

アメリカに保有する不動産を売却したくても、日本とは勝手が違うため、手間取ってしまうケースが多々あります。問題となりがちなのが、アメリカ不動産特有の「Lien」という登記にまつわる手続きです。Lienの詳細と、トラブル発生時の解決策を、国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

アメリカに所有する不動産、売却できず悩むオーナーも

「アメリカに所有している不動産を売却したいのですが、できないんです…」

 

このような法律相談を受けることがあります。なぜ、自らが持っていて自由に処分できるはずのアメリカ不動産を売却できないのでしょうか?

 

じつはアメリカ不動産には、「Lien」が登記(Record)されていて、それが残っている(Unreleased Lien)ために売却できないことがあるのです。

 

さて、この「Lien」とはなんでしょうか。

Lien=債権を担保するため不動産に登記された担保権

Lien(リーン)とは「債権を担保するために不動産に登記された担保権」のことをいいます。たとえば、ローンの提供をした銀行が貸金債権を担保するため、または内装や電気といった施工業者、修繕業者が金銭債権を担保するためにLienを登記することがあります。日本でいう抵当権に類似した担保権です。

 

では、Lienが登記されているかをどのように調べるのでしょうか?

 

アメリカでは州によって、不動産の登記情報、さらにそれに関する書面までもがオンラインで公開されているのが特徴的です。そのため、Lienが設定されているかどうか、残っているかどうかもオンラインで確認することができます。

 

例えば、テキサス州ダラスでは、不動産ごとに過去の売買契約書(Deed)、ローン契約書(Deed of trust)、そしてLienの登記情報が無料で即時に見られるオンラインデータベースが整備されています。

 

★ダラスカウンティの不動産登記情報データベース

Search (publicsearch.us)

https://dallas.tx.publicsearch.us/

 

重要なポイントとして、Lienが登記されているままの状態(unreleased lien)では、その不動産は売却できないということです。

 

日本では、不動産の売買を行うときに銀行間の送金により決済をすることが一般的です。

 

一方、アメリカでは、不動産売買時にエスクロー口座を開き、買主がエスクロー口座に売買代金を送金し、エスクロー業者が最終的に決済において当該代金を売主に送金する流れになるのが通常です。

 

しかし、この最後の段階で、エスクロー業者が、Lienが登記に残っていることを理由に、送金をしてくれないことがあるのです。

 売却時、初めて「Lienの放置」に気づくことも…

厄介なのは、施工業者がLienの登記をしている場合、たとえ施工費を全額受領していても、登記をそのまま放置してしまっている場合があることです。

 

そのため、オーナーがいざ売却しようと決めたときに初めてLienが放置されていたことに気づき、放棄(Release)の登記をするため当該施工業者にコンタクトをする必要に迫られたということがあります。

 

とくに、施工から相当期間が経過していると、施工業者と連絡が取れなくなってしまうこともあるので注意が必要です。また、当該施工業者と連絡がとれたとしても、施工業者に対して、過去に施工を依頼した案件を特定し、支払が完了していることや登記が残存している状況を説明して、放棄の登記までやってもらう必要があります。

 

これらの手続や説明を英語で行い、登記手続まで行うよう交渉するのはかなり難航します。

 

弊所がLienの権利者との交渉を受任した際には、幸い、権利者の当時のメールアドレスが生きていたのでコンタクトができました。その時、弊所から権利者に対して、放棄の登記をしてくれないとオーナーは不動産の売却機会を失い損失が生じうること、場合によっては損害賠償請求もありうる旨を示唆して、放棄の登記を速やかに行ってもらいました(その際に、権利者は謝るどころか「No worries」と言ってきたときには唖然としましたが)。

 

その後、登記を管轄するカウンティの受領印が押された登記申請書類を送ってもらい、カウンティにも連絡をして、放棄の登記が完了したことも確認しました。

決済は、エスクロー業者の売買代金送金でやっと完了に

ここまでくれば一件落着かと思いますが、そうではありませんでした。不動産売買で重要なのは決済です。つまり、エスクロー口座を管理するエスクロー業者が、売買代金をこちらに送金してくれて初めて決済は完了します。

 

しかし、弊所が受任した案件では、エスクロー業者にLienが放棄されたことをメールで伝えても、決済をしてくれませんでした。最終的には、ウェブサイトから、放棄の登記がされていることをスクリーンショットに保存し、放棄の登記申請書面もダウンロードしてエスクロー業者に共有して、初めて決済を行ってもらえました。このような立証活動をこちらで行う必要があるとはいまでも思えませんが、動きが遅いエスクロー業者にはそこまでしないといけなかった事案として教訓になりました。

動きが悪いエスクロー業者は、州政府にクレームを!

エスクロー業者は、弁護士が務めている場合もあります。しかし、弁護士だからといって安心して任せていてはいけません。あまりにも動きが悪いときには、エスクロー業を管轄している州政府に正式にクレームを提出することもご検討ください。

 

例えば、テキサス州では、Texas Department of Insuranceがエスクロー業者に対するクレームの受付をしており、クレームが受理されると、州政府からエスクロー業者に連絡がいき、トラブルの原因について説明を求めることができます。当事者にも、その説明書面が共有されますので、エスクロー業者と音信不通になってしまった時に、それを打開する方法として特に有用と思います。

 

アメリカ不動産を売却する際には、こういった公的機関を活用することで、エスクロー業者とのトラブルを解決できることもあることを、ぜひ覚えておいてください。アメリカ不動産の売却では、Unreleased Lienという問題を避けては通れないこと、そして解決する道がありますので、辛抱強く交渉を行うことが肝要です。

 

今回のポイント

●「Lien」が残っていると、不動産の売却ができない

●Lienを放棄してもらうためには、Lienの権利者が自ら手続する必要がある

●エスクロー業者も自発的に動いてくれないので、対応には要注意

●遅すぎるエスクロー業者には、公的機関にクレームを入れる方法もある

 

※こちらの原稿内容は執筆時点のものです。法改正、制度変更等の最新情報は、アメリカの法律・税務に詳しい専門家にご相談ください。

 

 

中村 優紀
中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士

 

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