為替介入の効果が「限定的」なワケ
為替介入で円高へ?…①為替市場は巨大で②金融政策の方向性が異なる
為替市場への介入は、方向によってはトレンドを止めることはできても、転換させるのは困難で、効果は限定的とされます。理由は、
② 概してファンダメンタルズで動くため
です。
まず、①規模については、政府が保有する外貨準備は直近8月時点で「約1.3兆ドル」です。これに対し、国際決済銀行(BIS)の直近報告によれば、2019年4月時点の1日あたりの円の取引金額は「約1.1兆ドル」です。
すなわち、日本の外貨準備は、1日あまりで使い果たしてしまう計算です。
次に、②ファンダメンタルズについては、答えが簡単ではありません。現在や将来の、名目・実質経済成長率の差、名目・実質金利差、貨幣供給量の差など、ときに応じて、金融市場の着目点が異なります。
概して足元の米国経済は、(戦争のエスカレートや資源供給の不足が懸念される)欧州、(ゼロコロナ政策の)中国、(物価の鈍さで景気の鈍さが感じられる)日本などに比べれば、底堅いとみられます。また、日銀の金融政策は、他の主要国・地域の金融政策とは異なります。
これらの要素を考え合わせると、まだしばらく、ドル安・円高には反転しない可能性があります。おそらく、反転のタイミングは、米国が景気後退に入って利下げを開始するときでしょう。
【参考】過去の為替介入の事例
すでに「1998年のドル売り・円買い」については上でみましたが、今回とは逆方向の「ドル買い・円売り」についても、過去4回分の局面を確認してみます。いずれも、財務省による「ドル買い・円売り」にも関わらず、円高を止めることはできていません。
チャートを細かくみると、むしろ、介入を止めると、相場が反転し、円安に向かうようにみえます。ただし、相場の大きな転換点は、次に述べるように、「ファンダメンタルズに関する見方の変化」によるものと考えられます。
[図表6、7]に沿うと、1995年前半からの相場反転(ドル安・円高→ドル高・円安)は、米国は6%までの利上げを行った一方で、日本はデフレに入って政策金利を0.5%まで引き下げたころであり、その後は上記のとおり、アジア通貨危機に伴うドルへのレパトリが生じます。
次に、2000年後半からの相場反転(ドル安・円高→ドル高・円安)も、米国は6.5%への利上げを終えた一方、日本はゼロ金利解除を行ったものの、量的金融緩和を導入する前夜でした。さらに、2004年は米国での利上げ開始の織り込みからいったんドル高・円安に反転し、(図にはないですが)2005年からはドル高・円安のトレンドが明確になります。
最後に、2012年の後半からの相場反転(ドル安・円高→ドル高・円安)は、欧州債務危機の終焉と日本での政権交代(日本での金融引き締めの終わり)が大きかったでしょう。
いずれにせよ、やがては、米国の利下げと共に円高方向に振れ、そのときは円建てでみた外国株式の最安値が訪れる可能性があります。そこに向けて、けっして急がず、割安なものをゆっくりと積み増していくことが考えられます。
重見 吉徳
フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
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