投資をしていると、「ヘッジファンド」という言葉を耳にする機会があるでしょう。ただし、意味をきちんと理解して説明できる人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、ヘッジファンドの意味や投資信託との違い、メリットとデメリット、投資戦略などを解説します。
1.「ヘッジファンド」とは?わかりやすく解説
ヘッジファンドとは、金融先物やデリバティブ(金融派生商品)、空売り、レバレッジなど様々な手法を使いながら、市場の動きに左右されず絶対的利益を追求することを目指す投資戦略(ファンド)です。株式や債券、為替などあらゆる金融商品に積極的な投資を行います。
ヘッジファンドは、アルフレッド・W・ジョーンズ氏が1949年にアメリカで立ち上げました。ロングポジション(買い)とショートポジション(売り)の両方を持てば、相場の上げ下げで損をしないのではないかと考えたことから誕生したのです。
ヘッジファンドの「ヘッジ」は、リスクから投資家を守る(リスクヘッジ)を意味しています。ヘッジファンドも運用がうまくいかなければ破綻する場合もありますが、基本的にはリスクを分散してリターンを求める商品です。
2.「ヘッジファンド」と「投資信託」は何が違う?押さえておきたい4つの相違点
ヘッジファンドと投資信託は、類似した特徴を持っています。
ここでは、証券会社や銀行で販売されている投資信託と、普段はあまり目にすることのないヘッジファンドを比較してみましょう。
ヘッジファンド |
投資信託 |
|
運用目的 |
絶対収益 |
相対収益 |
成功報酬 |
あり |
なし |
対象投資家 |
機関投資家・富裕層 |
一般投資家 |
投資金額 |
数千万〜数億円 |
100円〜 |
レバレッジ |
可能 |
基本的にはなし |
投資対象 |
株・債券などの伝統的資産 |
株・債券などの伝統的資産 |
ポイント1:運用目的の違い
ヘッジファンドが投資信託と大きく異なる点は、運用の目的です。ヘッジファンドは「絶対収益」、投資信託は「相対収益」を目指しています。
ヘッジファンドが掲げる絶対収益では、どんな相場でもプラスの利益を追求します。ベンチマーク※と比較するのではなく、どのような市場の動きがあろうとも収益が求められます。つまりどの指数にも関係なく常にプラスのリターンを目指すのが基本です。
※ ベンチマーク:比較する際の基準(競争相手)
一方で、投資信託が掲げている相対収益では、ベンチマークを上回る運用を目指しています。たとえば投資対象が日本株の場合、東証株価指数(TOPIX)をベンチマークとして設定することが多くあります。
このような投資信託では、TOPIXを上回ることを目標としているため、もしTOPIXが30%下落しても、下落幅が30%よりも小さければ、たとえ利益がマイナスでも運用が成功していると評価されます。
ポイント2:成功報酬の有無
ヘッジファンドと投資信託は、どちらも手数料のコストがかかります。
投資信託では、購入時手数料と信託報酬が発生します。購入時手数料とは投資信託を購入するときにかかるコストのことで、購入金額の0~3%程度の手数料になることが多いです。さらに、毎年1.5%前後の信託報酬も徴収されます。
ヘッジファンドも、運用残高の1〜2%程度の管理手数料がかかります。そしてヘッジファンドには、10〜20%の成功報酬を支払う必要があります。成功報酬は、ファンドマネージャーと投資家の利益が一致することを目的として取り入れられています。ファンドマネージャーが受け取るシステムなので、運用のモチベーションが高まり、成績が上昇する期待が高まるのです。
ポイント3:「私募」か「公募」か
一般的な投資信託は、個人の投資家を含む不特定多数から資金を集めて運用する「公募」の形態をとっています。
一方、ヘッジファンドは富裕層や機関投資家などの限られた投資家が出資して運用する「私募」の形態をとります。私募では、限られた人数しか参加できないため、1人当たりの投資金額が少ないとファンド全体の運用額が少額となってしまいます。
少額の運用では、効率的に利益を獲得することが困難です。運用額は大きければ大きいほど、プラスリターンが大きくなり、効率が上がることから、最低投資額が数千万〜数億円という高額な設定になっています。
ポイント4:安定性
ヘッジファンドと聞くと、ハイリスクハイリターンで、高い利回りの代わりにリスクが大きいといったイメージを抱いている人もいるかもしれません。
しかし、ヘッジファンドは投資信託に比べると投資対象が幅広く、またファンドマネージャーが多様な投資手法を駆使して運用しています。そのため、暴落局面でも可能な限りのリスク回避策をとることができるのです。
実際に、コロナショック時には日経平均株価は7回、NYダウでは5回も10%以上の下落がありましたが、ヘッジファンドはこの局面でも−10%ほどの下落で留まりました。
このように、制限のない自由な運用方法でリスク回避できるヘッジファンドは、安定性に優れた運用を実現しているファンドといえます。
3. ヘッジファンドに投資するとどんなメリットがある?
ヘッジファンドに投資するメリットは、主に以下の3つがあります。
- 投資戦略が豊富でリスクの分散ができる
- 悪い市場環境のなかでも収益を上げられる可能性がある
- 高い利回りを目指した運用ができる
1つずつ、わかりやすく説明します。
3.1. 投資戦略が豊富でリスクの分散ができる
ヘッジファンドの投資方法は制限がなく自由なため、多種多様な方法で運用ができます。そのため、株式市場が下落相場でも、仮想通貨などの伝統的資産以外の投資でリスクヘッジをすることができます。
このような分散投資(投資対象を多様化させて価格変動のリスクを低減する方法)の観点からも、ヘッジファンドは富裕層の分散投資先として適していると言えます。
3.2. 悪い市場環境のなかでも収益を上げられる可能性がある
絶対収益を追求するヘッジファンドは、どんな市場環境でもプラスのリターンを目指します。そのため、下落相場のなかでも、収益を狙える可能性を持っています。
100年に一度といわれる2008年の金融危機「リーマンショック」のときには、日経平均に限らず世界中の株価が大暴落しました。大きな損失を抱える人たちが多数いる一方で、ヘッジファンドの優秀なファンドマネージャーたちは知恵を絞り、大きな収益を上げたヘッジファンドもありました。
たとえ大不況に陥っても、金融のトッププロが運用することから、収益を上げられる可能性があるのです。
3.3. 高い利回りを目指した運用ができる
ヘッジファンドでは、10%程度の高利回りを目指すことができます。一般的な投資信託の平均利回りは、3%から高くても9%程度です。10%のハイリターンを得るには、多くの経験と知識が必要です。
10%の高利回りを目指せる理由として、高いレバレッジをかけての運用方法が挙げられます。レバレッジとは「てこの作用」という意味があり、担保で預けた証拠金の何十倍もの資金を動かして取引できるため、効率的に利益を上げることができるのです。
ただし、得られる利益が増える一方で、失敗した際には大きな損失が生じる危険性もあるので注意が必要です。プロのファンドマネージャーが常に危険回避をしているとはいえ、必ず成功するものではないということは覚えておきましょう。
4. ヘッジファンドに投資するとどんなデメリットがある?
メリットがある一方で、ヘッジファンドにはデメリットもあるので知っておきましょう。
- 自分のタイミングで解約できない
- 投資信託と比べると手数料が多くかかる
- 情報が少ないため運用状況が不透明
デメリットも理解したうえで、ヘッジファンドに投資するか否かを検討することをおすすめします。
4.1. 自分のタイミングで解約できない
ヘッジファンドは、換金性が低いことがデメリットです。
一般的な投資信託は、売却の注文を出してから5営業日前後で手元に売却額が入ります。しかしヘッジファンドは、四半期に一度などの特定の日にしか解約ができないことが多く、自分のタイミングで自由な換金ができません。通常の投資信託のように、自由な換金ができないため注意が必要です。
この理由としては、ヘッジファンドではレバレッジを効かせており、一度に大量の解約を受け付けてしまうと、解約金額の数倍ものお金を動かすことになり、その結果リターンが悪化することになり兼ねないことが挙げられます。そのような事情から、換金に制約を設けなければならないのです。
4.2. 投資信託と比べると手数料が多くかかる
ヘッジファンドでは、手数料などの運用コストが多くかかります。一般的に、運用残高の1〜2%程の管理手数料に加え、利益に対する成功報酬10~20%がかかるといわれています。成功報酬があるため、投資信託などの金融商品よりも多くのコストがかかってしまうのです。
しかし、これに関しては一概にデメリットとはいえません。先述したように、成功報酬制度があるお陰でファンドマネージャーのモチベーションが上がり、高い収益に繋がる可能性があるためです。
株式投資や投資信託よりも高い手数料を支払うことを理解したうえで、ヘッジファンドへの投資を検討しましょう。
4.3. 情報が少ないため運用状況が不透明
ヘッジファンドは、戦略として高い秘匿性が求められています。しかしこれは、情報が少なく運用状況が不透明というデメリットにも繋がります。
ヘッジファンドは、特定の投資家に限定した私募の形態をとっているため、社会一般に対して情報を開示する必要がありません。特定の少数投資家を対象にするヘッジファンドと、不特定多数を対象とする金融商品との間に、情報開示の本質的な差異があるのは当然のことです。
投資信託では、運用方針や投資先銘柄の情報を目論見書などで開示しており、投資家は開示された情報をもとに投資判断を下すことができます。
ヘッジファンドには詳しい情報開示がなく、運用状況を知ることが難しいので、一般の投資家には判断が難しく、手が出しづらい投資方法というイメージが一般的です。
5. ヘッジファンドの魅力は多彩な投資戦略|6つの代表的な手法
ヘッジファンドには、様々な投資方法がありますが、2022年6月末時点での残高の戦略別構成比は下記の通りです(日興リサーチセンター調べ)。
- エクイティヘッジ:27.7%
- マクロ:27.8%
- リラティブバリュー:23.6%
- リスクパリティー:7.1%
- イベント・ドリブン:6.7%
- ファンドオブファンズ:4.7%
各戦略の概要を紹介します。
戦略①:エクイティヘッジ
割安と評価される株式を買う(ロング)とともに、株価指数オプションや株価指数先物で株式市場全体を売る(ショート)ことにより、ベータ※を最小限に抑える運用手段をエクイティヘッジと呼びます。
※ ベータ(β):市場の動きに対して、個別銘柄やポートフォリオのリターンがどの程度動いているかを表す数値
戦略②:マクロ
マクロとは、経済指標を利用してマクロ経済のトレンドを予測して、債券、株式、コモディティなど世界の様々な商品、市場を対象にしてロング(買い)とショート(売り)を交える投資戦略です。
戦略③:リラティブバリュー
リラティブバリューは、相対価値投資戦略とも呼ばれています。債券、株式、商品、通貨などで、相対価値が割安なロングと、割高なショートを組み合わせた結果で生まれる価格差により収益を得る投資戦略をいいます。
戦略④:リスクパリティー
リスクパリティーとは、市場の動きを見て組入比率を変更し、ポートフォリオに占める各資産のリスクを均等に分散して保有することで、リスク回避を行う投資手法です。基本的に、価格変動率が大きい株式の比率が低く、価格変動率が小さい債券の比率が高くなります。
戦略⑤:イベント・ドリブン
イベント・ドリブンとは、企業の業務提携、株式公開、M&A(買収、合併)など、企業において特別な出来事に焦点を当てた投資手法です。
企業の株価は、出来事により変動が大きくなります。プラスになる企業も、マイナスになる企業も場合によって変わります。その出来事1つ1つに対して、プラスになる株式をロング、マイナスになる株式をショートすることで、収益を得ます。
戦略⑥:ファンドオブファンズ
ファンドオブファンズとは、複数の投資信託(ファンド)へ投資する外部委託型の投資信託をいいます。複数のファンドへの投資なので、リスク分散が可能です。
通常の投資信託は、投資家から集めた資金で株や債券などに投資しますが、ファンドオブファンズでは複数の投資信託が投資対象で、各ファンドから得た成果を投資家へ還元します。
6. まとめ
ヘッジファンドは、リスクもありますが、安定性に優れた投資戦略だといえます。運用方法が自由でリスク回避を行い、絶対収益によって高いリターンが見込めるため、富裕層の投資家にとって有用な投資方法です。
しかし、情報の少なさや運用コストの高さなどのデメリットもあります。そのため、ヘッジファンドへ投資を検討する際には、内容をしっかり勉強し、慎重に判断しましょう。
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