最低賃金引き上げで「壁」の問題点が浮き彫りに
配偶者特別控除の趣旨は、先述したように、配偶者控除の「103万円の壁」の内側の人と外側の人との不公平を是正することにあります。
2018年の法改正で「壁」を引き上げたことは、その延長線上にあると考えられます。
また、「103万円の壁」が女性の社会進出を阻んでいたという指摘は古くからあり、その問題意識も反映されていると考えられます。
実際、2014年に当時の安倍晋三首相が現行の税制・社会保障制度について「女性の就労拡大を抑制する効果をもたらしている」と断じています(第1回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議議事要旨P.13参照)。
しかし、そもそも「壁」という発想の範囲内で解決しようとすることに限界があります。
配偶者控除の「103万円の壁」が実質上取り払われたといっても、「150万円の壁」に置き換わっただけです。また、「141万円の壁」が「201万6,000円の壁」へと引き上げられたことも、「壁」という発想のなかでの微調整でしかありません。
さらに、社会保険料に関する「106万円の壁」または「130万円の壁」も依然として存在するので、それらを気にしないわけにはいきません。
2022年10月に最低賃金が引き上げられることによって、それらの「壁」を気にして働いてきた人の多くは、壁を超えないために、労働時間を減らそうとすることが予想されます。
皮肉なことに、「壁」の存在が最低賃金の引き上げとあいまって女性の社会進出を妨げ、しかも、壁の内側の人と外側の人との分断を進めてしまうおそれがあるのです。
最低賃金の引き上げは、「壁」という制度のあり方の根本的な問題点を浮き彫りにしたといえます。
もはや「壁」をいじる程度では、根本的な問題は何ら解消されないのは明らかです。
女性の社会進出が進み、共働き世帯が多数となり、かつ、老後資金2,000万円問題等もあるなか、現行の税制・社会保障制度の抜本的な見直しが迫られています。
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