「痛みを持った利上げ」でまずは実質金利をプラスへ
1%を超える利上げを実施すべき理由➁…金融政策はまだまだ緩和的
そもそも、インフレ率は6%台である一方、政策金利は2%台であり、実質政策金利は大幅なマイナスです。金融政策はまだまだ緩和的であり、インフレの収束はまったく確約されません。
「インフレ期待が落ち着いている」との報道もありますが、いまやFRBは、実際のインフレ率が鈍化することを確認したいでしょう。そのためにはまず、実質金利をできる限り早く、プラス水準に誘導することが必要です。
1979年~1982年のポール・ボルカー議長による引き締めの場合には、金融政策のツールを「公定歩合」(=金利)から「マネー・サプライの伸び率」に変更したため、金利は、コントロールされず放置された結果、急速かつ大幅に上昇しました。金利の大幅かつ急速な上昇が不評でも「金利は目標ではなく、市場に任せている」とつっぱねることができました。
そして、高い金利は確実に需要を抑制していきました。ボルカー議長の政策は「衝撃と畏怖」(shock and awe)となり、市場参加者とインフレを圧倒したわけです。
しかし、現在は、政策金利が中心ツールであり、FRBが能動的に引き上げていくほかありません。しかもFOMCは(例外もありますが)年に8回しか開かれません。
ポルカー時代のように、フェデラルファンド金利が毎日のように跳ね上がることは不可能なわけです。いままでと同じことをしていれば、実質金利がプラスになるのに相当な時間がかかることが誰の目にも明らかです。
1%を超える利上げを実施すべき理由③…ジャクソンホール講演との整合性
議長はジャクソンホール会合での講演で、
「インフレを低下させるためにはトレンドよりも低い成長がしばらくのあいだ続くことが必要」「現在よりも高い金利、低い成長、そしてソフトな労働市場は(中略)家計と企業に幾分の痛みをもたらす。それらはインフレを低下させるための不幸なコストである」
「労働市場は特に強く、明らかに需給のバランスが取れていない」
「物価の安定を回復するためにはしばらくのあいだ、引き締め的な政策スタンスを維持する必要がある」
「我々の目的はいま決意を持って行動することによって、過去と同じ結末(=1960年代中盤から1980年代前半にかけてのインフレを抑えるのに失敗し続けた15年と、その後の非常に引き締め的な金融政策)を避けることである」
「仕事を完成させるまで忍耐強く続ける必要がある」
との声明を、結びを含め、2度強調しました。
シンプルにいえば、「景気後退をもたらすような引き締め」こそが、上記の講演内容と整合性があります。