(※写真はイメージです/PIXTA)

日本経済の成長が止まった1990年代に一体何があったのでしょうか。1990年代に発生し、企業の生産性に決定的な影響を及ぼす出来事と言えば、それはパソコンの普及、言い換えればビジネスのIT化以外に考えられません。経済評論家の加谷珪一氏が著書『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)で解説します。

ハードからソフトへ転換できない日本人

しかしパソコンというのはまったく異なる概念で設計されています。

 

パソコンは1人1台保有することが大前提の商品であり、1台何千万円もする従来のコンピュータと比較して、コストを100分の1以下にしなければビジネスとして成立しません。このためパソコンという製品に最初に本格的に取り組んだ企業(米IBMなど)は、製品の設計にあたって、常識破りの概念を次々に導入しました。

 

パソコンの設計は基本的に外部に対してオープンになっており、誰でも同じ仕様で製品を開発できます。最初に設計を行った企業は損しますが、それよりも爆発的な市場の拡大を優先したわけです。皆が同じパソコンを製造するので、部品を製造するメーカーはまったく同じ部品を各パソコンメーカーに供給します。部品メーカーは大量生産が可能となり、部品のコストが極限まで低下。最終的にはメインフレームの数百分の1までコストが下がったことで、世界中の人たちが1人1台保有するまでに市場が拡大したのです。

 

設計がオープン化され、特定の部品メーカーが各社に同じ部品を提供する形態を「水平分業」と呼びますが、パソコン業界は典型的な水平分業です。

 

こうした産業構造においては、部品製造の概念も根本的に変える必要があります。

 

パソコン向けのDRAMは絶対的にコストを安くする必要がありますから、品質はある程度犠牲にせざるを得ません。しかしあまりにも粗悪な製品を提供すれば、いくら個人ユーザーといっても顧客は反発します。圧倒的な低コストと顧客がガマンできるギリギリの品質の両者を満たす製品・価格戦略が求められますが、ここで大成功を収めたのが韓国メーカーと台湾メーカーです。

 

両国の企業はすべての経営資源をパソコン向け製品に絞り、品質はそこそこで、極めて安価なDRAMを大量に生産しました。一方、日本企業はいい製品を作っていれば、自然と注文は入ってくるという従来の概念に固執し、高品質かつ高コストなDRAMにこだわり続けたのです。

 

日本メーカーのシェア低下や韓国メーカー、台湾メーカーの台頭という現実を目の前にしても日本メーカーはやり方を変えられず、品質を維持したまま価格だけを引き下げたため、各社は大赤字に転落。結局、ほぼすべてのメーカーが撤退するという最悪の事態となりました。

 

劇的なコスト低下と並ぶもうひとつの変化はソフトウェア重視です。

 

従来の大型コンピュータは大量の情報処理が目的でしたから、ハードウェアの性能がすべての基準でした。ソフトウェアはハードウェアの付属物という程度の認識であり、あまり重視されていなかったのです。しかし1人1台がパソコンを保有するとなると、状況は一変します。

 

大型コンピュータの用途は膨大なデータ処理に限定されていましたが、個人向けツールの場合、使い方は人によって千差万別です。

 

調査・分析などに従事している人は、従来と同様、大量のデータ処理を望むかもしれませんが、別の人はゲームをするためにパソコンを購入するかもしれません。表計算ソフトを使って経理業務をしたいという人もいるでしょうし、単にワープロとして使う人も少なくありません。

 

さらに言えば、パソコンを使ってアートを描く人や作曲をする人もいます。つまりパソコンというのは何でもできる装置であり、その使い方は利用者が考えていくという点で従来の製品とは大きく異なっているのです。

 

1台のコンピュータで、あらゆる消費者のニーズに対応するためには、豊富なソフトウェアが必要です。パソコン時代が到来したことで、ソフトウェア産業の重要性が一気に高まる結果となりました。大型コンピュータの時代には、マイクロソフトのようなソフトウェア専業の超巨大企業は存在していませんでしたから、その変化の大きさがお分かりいただけると思います。

 

加谷 珪一
経済評論家

 

 

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    本連載は加谷珪一氏の著書『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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    加谷 珪一

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