(※写真はイメージです/PIXTA)

日本経済の成長が止まった1990年代に一体何があったのでしょうか。1990年代に発生し、企業の生産性に決定的な影響を及ぼす出来事と言えば、それはパソコンの普及、言い換えればビジネスのIT化以外に考えられません。経済評論家の加谷珪一氏が著書『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)で解説します。

ビジネスのIT化が日本の成長を止めた

つまり経済成長というのは、資本、労働、イノベーションの3つで決まる、ということになります。イノベーションを直接、目で見ることはできませんが、労働生産性はその代理変数と見なすことが可能です。労働生産性が高ければイノベーションが活発であり、低い場合にはイノベーションが不活発と判断できます。

 

下図は、各国の労働生産性を比較したものですが、日本の労働生産は戦後、一貫して主要国中最下位が続いています。しかも1990年代以降、伸び率が鈍化しており、各国との差はむしろ拡大している状況なのです。

 

1980年代までは絶対値こそ低いものの、諸外国と同じペース、もしくはそれを上回るペースで生産性を向上させていましたが、90年代以降はそうした伸びが見られなくなりました。労働生産性はイノベーションの代理変数であることを考えると、日本は90年代以降、イノベーションが不活発になった可能性が濃厚です。

 

では、1990年代に一体何があったのでしょうか。

 

実は、この問題についての答えはハッキリしていると思います。1990年代に発生し、企業の生産性に決定的な影響を及ぼす出来事と言えば、それはパソコンの普及、言い換えればビジネスのIT化以外に考えられません。

 

1990年代以降、全世界的にビジネスのIT化が進み、個人の生産性が飛躍的に向上しました。各国企業はITをベースにビジネスモデルの再構築を進めたことで、ビジネス環境が大きく変化しました。つまり1990年代以降、世界経済の枠組みが新しい形態にシフトしたのです。ところが日本企業は、このパラダイムシフトを完全に見誤り、一気に国際競争力を低下させてしまいました。

 

加谷珪一著『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)より。
加谷珪一著『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)より。

 

■IT化がもたらした劇的な変化

 

1980年代までの日本企業は、基本的に安価で良質な製品を大量生産するというビジネスモデルでした。世界経済は工業化の進展に伴って、多くの工業製品を必要としていましたから、日本企業は外国からやってくる注文にしっかり対応していれば業績を拡大することができたのです。輸出産業の業績拡大がやがて国内消費に結びつき、成長を加速させるメカニズムは以前、説明した通りです。

 

ところが1990年代に発生したパラダイムシフトはこの常識をすべてひっくり返す結果となりました。製品の品質や価格に対する認識が激変したことから、企業はより高度な製品戦略を求められるようになったのです。

 

根本的な価値観の転換を迫られたものの、その変化について行けず、最終的にほぼ壊滅状態まで追い込まれた日本の半導体産業の顛末は、一連のパラダイムシフトを象徴しています。

 

1980年代における日本の半導体産業はまさに絶好調であり、DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)分野での世界シェアは何と80%に達していました。当時のDRAMはメインフレーム(汎用機)と呼ばれる大型コンピュータ向けでしたが、メインフレームは極めて高価な商品でした。銀行など絶対にミスが許されない業界が、高いコストをかけて運用するというのが当時のコンピュータの常識だったわけです。

 

日本メーカーは高品質なDRAMを大量生産していましたから、世界中から注文が殺到していました。当時の日本メーカーは、顧客が求める性能を妥当な価格で生産することに注力していればよく、与えられた課題に向かって一心不乱に努力する日本人の気質とぴったりの事業環境でした。

 

ところが1990年代に到来したパソコンの普及というパラダイムシフトが、こうした常識をすべて吹き飛ばしてしまったのです。

 

パソコンという機器は同じコンピュータといっても、従来のメインフレームとは設計思想はもちろんのこと、使う部品、製造工程に至るまですべてが異なります。

 

従来の大型コンピュータは、品質と性能が最優先ですから、最終製品を製造するメーカーは、末端の部品も含め、すべてを自社で管理していました。ひとつのメーカーが全体を統括するという意味で、こうした産業構造を「垂直統合」と呼びます。垂直統合の最大の欠点はコストがかかることですが、顧客は高い価格でも買ってくれますから、コストの高さはそれほど大きな問題にはなりません。

 

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    本連載は加谷珪一氏の著書『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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