「富裕層から税金を取れ」は正しいか
マスコミは「世界上位1%の超富裕層の資産が今年、世界全体の個人資産の37.8%を占めたことが、経済学者ら100人超による国際研究でわかった」などとイメージで報じることがある。「高額所得者が、ますます所得を増やしている。貧富の格差が拡大しているのが問題だ。高額所得者にもっと税金をかけろ」という主張である。
だが、残念ながら、世界の超富裕層の中で日本人が占める人数は減る一方だ。増えているのは中国人である。
「超富裕層としてソフトバンクの孫正義氏、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正氏、メルカリ創業者の山田進太郎氏らがいる。彼らからもっと税金を取れ」と言い張る向きも多い。
しかし、彼らが富裕層になったのは、給与所得というよりも、主に持ち株の上昇によるものだ。いくら会社から役員報酬を得ていても、所得の半分以上を税金や社会保険料で取られては大して資産は増えない。その超富裕層の方々も亡くなってしまえば、相続税でゴッソリ取られるだけだ。それが日本の仕組みだ。
これは国税庁の民間給与実態調査結果のデータだ。
Q:高額所得者(年収1000万円以上)は勤労者の中で何%いて、彼らは勤労者全体の給与総額の中で何%をもらっていると思いますか?
(ア)1.0%を占めていて、給与総額の35%をもらっている。
(イ)2.5%を占めていて、給与総額の40%をもらっている。
(ウ)4.5%を占めていて、給与総額の16%をもらっている。
正解は(ウ)である。
「1000万円超2000万円以下」は213万人、「2000万円超」は26万人いる。合計すると「1000万円超」の人は240万人いる。勤労者5244万人の中で4.5%になる。「1000万円超」の人が得ている給与所得は36兆4520億円である。勤労者の給与総額227兆円の中では16.04%を占める。
つまり高額所得者は4.5%いて、彼らは給与総額の16.04%を占めているに過ぎない。所得格差は実に小さいのだ。
手取りベースになると、所得格差をさらに小さくしているのは、所得税の仕組みのせいでもある。民間給与実態調査(2020年)の給与階級別の税額には、次のように記載されている。
「1年を通じて勤務した給与所得者について、給与所得者数及び税額を給与階級別にみると、1年を通じて勤務した年間給与額800万円超の給与所得者は481万人で、全体の給与所得者の9.2%にすぎないが、その税額は合計6兆8834億円で全体の64.3%を占めている」(第21表参照)。