二極化ではなく、低所得者が激増した
1997年→2020年という24年間で、二極化は世間でいわれているように進んだのだろうか?
筆者は、国税庁の「民間給与実態調査」から年収の分布を調べてみた。年末調整の結果なので信憑性は高い。
この調査は「給与総額=勤労者数(1年以上勤務)×平均年収」という算式になっている。
年収を「800万円超」「800万円以下」「400万円以下」という3区分にして推移をみた。「1年以上勤務 男女計 非正規雇用含む」の年収である。
「800万円超」は2.8ポイント減で9.2%になった。
「800万円以下」は3.0ポイント減で35.7%になった。
「400万円以下」は5.9ポイント増で55.1%になり、過半数になった。
注目したいのは「800万円超」のウエートが上がるどころか下がっていることである。「800万円超」の人は構成比のみならず、人数自体が減っていた。「800万円超」が増えて「400万円以下」が増えるならば格差拡大である。だが、事実は違った。山が全体的に地盤沈下したように下がっていた。
つまり高所得者と低所得者という形で二極化しているわけではなく、言ってみれば山全体がズリ下がるように低所得化したのだ。
企業規模間の格差は拡大したのだろうか? 大手企業の従業員は利益を独り占めにして、下請けを叩くことで、中小企業の従業員に冷や飯を食わせているのだろうか?
筆者は、企業規模ごとに給与を分析した。民間給与実態調査では、事業所の規模別を従業員数によってもまとめている。ここでは「従業員10人以上30人未満」を「中小」とし、「5000人以上」を「大手」とした。
平均年収は、このように規模を問わずに落ち込んでいる。特に大手の落ち込みが大きい。
筆者自身も民間給与実態調査のデータをみる前なら「大手は年収が上がっていて、一方、中小は置いてきぼりにされた」とイメージしていた。だが、データはその先入観を打ち砕いた。実際には大手においても、年収はガタ減りに下がっていたのだ。特に大手の男性はダウンが大きかった。もちろん中小もダウンしていた。
言ってみれば「日本株式会社」は、大手も中小も総崩れ状態だったのだ。
「平均年収」をみたあとで、次に従業員規模別の「年収分布」を調べてみた。年収を「400万円以下」「800万円以下」「800万円超」に区分した。
「大手 男性」の年収を見てほしい。もしも格差拡大ならば「800万円超」の人が増えているはずだ。だが、そのウエートは37.8%→28.0%へと大きく下落していた。このデータには非正規雇用者が含まれているので大手が非正規雇用者のウエートを上げたのかもしれないが、それだけではここまで下がらないだろう。やはり、大手の男性もリストラの嵐に見舞われ年収がダウンしたのだ。
データをみる限り「大手が年収を上げて旨い汁を吸っているが、中小は搾取されて冷や飯を食っている」という姿が浮かんでこない。大手も落ち込みが激しい。
もちろん「中小 男性」においても「400万円以下」のウエートが39.4%→48.7%へと上がり、全体が低年収化した。