(※写真はイメージです/PIXTA)

1970年に「生命科学」という分野の創出に関与し、早稲田大学、大阪大学で教鞭をとった理学博士の中村桂子氏。生物を知るには構造や機能を解明するだけでなく、その歴史と関係を調べる必要があるとして「生命誌」という新分野を創りました。そして、「歴史的文脈」「文明との相互関係」も見つめ、科学の枠に収まらない知見で生命を広く総合的に論じてきました。科学者である彼女が、年齢を重ねた今こそ正面から向き合える「人間はどういう生き物か」「人として生きるとは」への答えを、著書『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)として発表。自身が敬愛する各界の著名人たちの名言を交えつつ、穏やかに語りかける本書から、現代人の明日へのヒントとなり得る言葉を紹介します。

植物がもつ色彩の不思議

自然をよーく見てここぞというタイミングでお手伝いするのが人間の役割で、だからこそ人間は美しいものや美味しいものを楽しめるのですね。

 

ただし、この時に私がやってやるというのはダメで、あくまでも謙虚でなければならないのです。染色だけでなく、お料理も子育ても、花の手入れもみんな同じではないでしょうか。

 

そもそも現代文明は、自然を思いのままに利用しようとしたところに間違いがあったので、自然の力を信じ、そっと手を貸す気持ちが大事なのはすべてに通じることでしょう。

 

志村さんとお話をしていて驚いたのは、緑色は一つの植物では出せず、青と黄色を混ぜ合わせてつくらなければならないということです。自然は緑だらけですのに染められないってふしぎですね。

 

藍染をなさる方はご存じでしょうけれど、藍がめにつけた布や糸を引き上げると瞬間緑色になりますね。でもあっという間に青になってしまう。自然の中に満ちている緑が染色では出せないのです。

 

志村さんは「光が形を変えた色を無償で私たちに与えてくれる植物は、人間よりも格上で位の高い存在ではないかとすら思います」と語り、いつも植物の「命をいただく」「色をいただく」とおっしゃいます。

 

その色は「それぞれの木や草でみんな違い、同じ木でも幹と根では違い、本当に多様」だとも教えて下さいました。色だけ見ても生きものの世界は多様そのものなのです。

 

緑の葉はたくさんあるのに緑色が出ないというだけでなく、桜の花のようにピンクに輝いているところからピンクはとれないというのも興味深いお話でした。自然って本当に面白く、学ぶことがたくさんあります。

 

 

中村 桂子

理学博士

JT生命誌研究館 名誉館長

 

本連載は、中村桂子氏の著書『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)から一部を抜粋し、再構成したものです。

老いを愛づる

老いを愛づる

中村 桂子

中公新書ラクレ

白髪を染めるのをやめてみた。庭掃除もほどほどに。大谷翔平君や藤井聡君にときめく――自然体で暮らせば、年をとるのも悪くない。人間も生きものだから、自然の摂理に素直になろう。ただ気掛かりなのは、環境、感染症、戦争、…

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