認知機能の低下:睡眠薬、精神安定剤だけではない
日本では65歳以上の高齢者の6人に1人が認知症と言われており、大きな社会問題となっています。ポリファーマシーは高齢者の「認知機能の低下」にも関わっているとされ、特に認知機能に影響を与える(脳に作用する)薬には注意が必要です。
認知機能に影響を与える薬として代表的なのは「睡眠薬」や「精神安定剤」などになりますが、意外なところでは「胃薬」「抗アレルギー薬」「頻尿の薬」なども挙げられます。「胃の調子が悪い」「体が痒い」「おしっこが近い」などは、高齢者では非常に多い症状です。これらの症状を治療する際には、なるべく認知機能に影響を与えない薬を選択する必要があります。
「薬の飲み忘れ」が医療経済に影響?
もう一つ、ポリファーマシーによる課題として「薬の飲み忘れ」があります。薬の種類が増えてくると、必然的にその飲み方も複雑になってきます。仮に10種類の薬を処方されているとして、その全てが「1日1回朝食後」であれば問題ないかもしれません。
しかし、「1日1回起床時」「1日1回朝食後」「1日2回朝夕食後」「1日3回毎食後」「1日3回毎食前」「1日1回就寝前」のように飲み方がばらばらだった場合はどうでしょうか。若い人でも正しく飲めるかどうか疑問です。そうなってくると必然的に飲み忘れることが増え、それに伴い残薬が増えていきます。
少し逸脱しますが、日本の医療費は増加傾向にあり、2020年度は42.2兆円、2040年には66.7兆円になるとの予測もされています。特に75歳以上の後期高齢者における医療費は全体の約4割を占めており、私のように高齢者の診療をすることが多い一般内科医にとっては、膨れ上がる医療費のことも考慮しながら診療を行う必要があります。
前述の通り、ポリファーマシーは薬の飲み忘れに繋がります。日本薬剤師会の調査によると、75歳以上の高齢者における残薬の年間総額は約475億円に上ると推計されており、日本全体ではなんと1,000億円以上分の残薬があると言われています。この残薬による損失は増大する医療費にとっても重要ですし、何より薬は安いものではないので、患者さんやその家族にとっても無駄な出費となってしまっています。
ポリファーマシーを意識することは患者さんの健康だけでなく、医療経済にとっても非常に重要なことなのです。
次回は、ポリファーマシーとなってしまう主な原因、またポリファーマシーを避けるために患者さんや家族ができることについて考えてみたいと思います。
岡田 有史
総合内科専門医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター